Brass氏は在籍中の出来事を2つ紹介して、これが内部競合の結果、有望な技術や製品が芽が出る前に潰されてしまっていると断言している。例えば、同氏のチームがClearTypeのフォント技術を開発したとき、他のチーム、WindowsやOfficeチームは「目が痛くなる」「機械が壊れる」と技術を否定し、ポケットデバイス部門のバイスプレジデントは「技術を採用するからチームの人員をこちらによこせ」と打診してきたという。ClearTypeの評価が高いのはXP以降のユーザーなら良く知っていると思うが、内部の根回しや特許関連など、完全版が日の目を見るまでに10年近い歳月を費やす結果になったという。これがもし早くに注目されていたら、電子ブックリーダーなどの用途でMicrosoftの大きな手助けになっていたかもしれないと同氏は振り返る。

もう1つの例はタブレットPCだ。Microsoftでは上層部が早くからタブレットPCに着目してプロモーションを重ねていたが、結局ほとんどブレイクすることなく、現在ではタブレットPC事業そのものが縮小されてしまっている。一方でAppleはiPad発表で注目を集め、Microsoftは新たなコンセプトでHewlett-Packardの開発した「HP slate」というタブレット製品を今年のCESで紹介する形になった。

Brass氏がタブレットPCの開発に携わっていたのは2001年のことで、当時Office製品を担当していたバイスプレジデントにタブレットPC向けの製品改良について打診しに行くと、そうした改良を拒否されたという。キーボード派である担当者には、スタイラスのようなペンを要求するタブレットPCのUIが我慢できなかったからという。結果、細かい入力作業でも逐次ポップアップが出現するような非常に使いづらいUIができあがり、こうしたタブレットPCを改良するという努力は無にされたということだ。

ソフトとハードが組み合わされ、うまくデザインされた製品

どこの大企業でにもあるような話で、警告というよりも一種の恨み節に聞こえる告発だが、ある意味でMicrosoftが大企業病に近い状態になっており、新興企業や強力なリーダーがいる企業らに比べてフットワークが重くなっている可能性はある。

またBrass氏は、「(利益率の高い)ソフトウェア偏重で(リスクの高い)ハードウェアを嫌う」というMicrosoftの文化にも触れており、これは創業当時には有効なアイデアだったかもしれないが、iPhoneやTiVoなどの両コンセプトが合わさってうまくデザインされた製品を、Microsoftが生み出せなくなっている点を付け加えている。