――キャスティングについてはどのような経緯で決定したのですか?

「遠子に関しては、本当にこれこそ最大公約数を探ったというところですね。何人かの候補の中から三次選考ぐらいを経て、選ばせてもらいました。ほかのキャストさんについても、複数の候補の中から、製作委員会のほうでオーディションをして選考した感じですね」

――その中でも特に監督が注目したキャスティングはどのあたりですか?

「遠子は当然なんですけど、カメラを心葉くんが持っているので、どうあっても心葉くんはあらゆるシチュエーションに対応してもらわなければならないわけですよ。これはストーリー的なことではなくて、現場的な要求ですね。心葉くんはその要求がもっとも高いキャラクターだったので、キャスティングについては、僕自身もかなり希望を出させてもらっています」

――ストーリーを最初から追えないという状況において、キャラクターの個性を表現するのは、かなりの苦労があると思うのですが、そのあたりはいかがですか?

「ストーリーは最初から追わないんだけど、設定についてはあくまでも原作ありきでお話を作っていくのか、初見の人でもある程度の人物関係がわかるように作っていくのかは、最初の本作りの段階で、かなりディスカッションしました。映画は後から説明できないので、僕としては明確なテーマに沿って表現していきたいところなのですが、やはり人気のあるキャラクターもたくさんいますので、その子たちもちゃんとストーリーに絡ませていかなければいけない。ある意味、商売的な部分でのすりあわせに一番労力を使いました」

――みんなが映像で観たいところだけを拾っていくと、単なるダイジェスト集になってしまいますからね

「そうですね。なので、最大公約数となる最終的なテーマをある程度のカタチにして、脇を固めるキャラクターたちはそこに乗せていくという感じになっています。すべてをトータルで網羅していくというのは、やはり難しいですからね」

――映画として今回一番の見せ場になるのはどのあたりになりますか?

「けっこういろいろな見せ場を散りばめてはいるのですが、やはりその中でも"夜"に注目してほしいですね。今回のプロジェクトの中で、きちんとした"夜"が描かれているのは映画の本編だけなんですよ。実はそのあたりの住み分けは最初から僕の中にあって、逆に、そうしないといかんと思ってやっていました」

――アニメ化するにあたってはやはり"動き"という要素が重要になると思うのですが、基本的に"文学少女"は動きが少ない作品なので、そういった原作の雰囲気も大事にしなければいけない。そのあたりの調整はどのようにお考えですか?

「カットごとに調整するということはせず、大きく言ってしまうと、前半と後半で違うというぐらいの分け方になっています。やはりアニメーションにする以上、動くこと自体に面白みがなければならないし、それ自体がフィルムの見せ場だったりもします。しかし、それが前後に介在するカタチだと、やはり"文学少女"という原作のテイストに合わないんですよね。そしてもちろん、どちらか一方だけでは作品として面白くならない。なので、前半と後半で分けてしまうぐらいのバッサリとした組み立てにしたほうがよいのではないかということで、絵コンテの段階ではそれぐらいの思い切った構成にしています」

――それでは最後に、劇場公開を楽しみにしているファンの方へのメッセージをお願いします

「原作を読んでいる人も読んでいない人も、どちらにも訴求できるように欲張っています。初見の人でも、この世界に触れることによって、逆に語り切られていない部分を知りたくなるといった感じでは見せられるのではないかと思っています。とにかく楽しみに待っていてください。よろしくお願いします」

――ありがとうございました

「夜」の描写に注目

『劇場版"文学少女"』は、北海道ユナイテッド・シネマ札幌、東京シネ・リーブル池袋、愛知伏見ミリオン座、大阪テアトル梅田、福岡ユナイテッド・シネマキャナルシティ13にて、2010年5月1日(土)より順次公開予定。

■劇場版"文学少女" おもなスタッフ
原作 / 野村美月「"文学少女"シリーズ」(エンターブレイン ファミ通文庫刊)◆原作イラスト / 竹岡美穂◆監督 / 多田俊介◆構成・脚本 / 山田由香◆キャラクターデザイン / 松本圭太◆音楽 / 伊藤真澄◆アニメーション制作 / Production I.G◆製作"文学少女"製作委員会

■劇場版"文学少女" おもなキャスト
天野遠子 / 花澤香菜◆井上心葉 / 入野自由◆琴吹ななせ / 水樹奈々◆櫻井流人 / 宮野真守◆芥川一詩 / 小野大輔◆姫倉麻貴 / 伊藤静◆竹田千愛 / 豊崎愛生◆森ちゃん / 下田麻美
(C)2009 Mizuki Nomura/PUBLISHED BY ENTERBRAIN, INC./ "文学少女" 製作委員会