単なるデータの倉庫ではない「My Bookシリーズ」
ウエスタンデジタルジャパンが12月初旬から出荷を開始した新しい「My Book Elite」および1月から出荷を開始する予定の「My Book Studio」は、今後の外付けハードディスクという製品の位置付けを大きく変える製品になるかもしれない。その理由を同社VP Marketing Branded ProductsのDale Pistilli氏に聞いた。
My Bookシリーズ「My Book Elite」。容量は640GB / 1TB /1.5TB / 2TBの4種類、インタフェースはUSB 2.0、Windows対応。Macはフォーマットにより対応可能 |
従来の外付けハードディスクはデータを保存する倉庫としての役割が大きかった。そのため、ユーザの大半は保存容量と価格の安さに購入時のポイントを置いてきた。もちろん、ハードディスクへの負荷が高い作業をする場合は転送速度や信頼性も重要になる。また、パソコンの周辺機器とはいってもデザインも選ぶ場合の大切な要素の1つである。しかし、基本的には差別化が難しい製品であったことは間違いない。そのため、現実的には「価格が安いものが売れる」というデフレのご時世をそのまま体現した製品だったといえる。特に日本では、アイ・オー・データやバッファロー、ロジテックといった周辺機器メーカーがハードディスクの製造メーカーから仕入れたドライブを独自のケースに組み込んで量販店で販売する形式が一般的だったこともあり、価格競争は熾烈を極めてきた。
その中で、大手ハードディスクドライブ製造メーカーであるウエスタンデジタルは、自社が開発したケースにドライブを組み込んだMy Bookシリーズを昨年より本格的に日本市場に投入した。ドライブの特性を把握している製造メーカーの強味を生、ファンレス構造でありながら発熱が少なく、さらにMacと親和性の高いデザインやカラーを採用するなど、「高い信頼性」「優れたデザイン」「使いやすい機能」という質の高さを売りに認知度アップを図ってきたが、激戦区である日本市場でのシェア拡大は容易なことではなかった。
「ウエスタンデジタルの外付けハードディスクが購入しやすいように2009年12月から日本のアマゾンでも積極的な販売を始めました。特にMy Book Essentials 2TBはかなりお得な価格で購入できると思います」と語るVP Marketing Branded ProductsのDale Pistilli氏 |
そこで登場したのが、ユーザに新しいライフスタイルを提案する機能を盛り込んだ新My Bookシリーズである。Dale Pistilli氏によれば「知能をもったハードディスク」を目指しており、その中心となるのが、製品に組み込まれた「WD SmartWare」という専用ソフトだという。このソフトはハードディスク用のユーティリティではあるが、従来のように付属CDからインストールするわけでもハードディスクに単にコピーされているわけではない。ドライブの特別な領域に組み込まれており、常にデスクトップ上に表示されるようになっていて、ユーザが必要な時にいつで使用することができる。また、「変更可能なラベル」「強力な暗号化」「ドライブの診断」「スリープタイマーの設定」「保存内容の分類表示」といった機能を備えており、ユーザは自分の好みの仕様にハードディスクを設定することができる。
電源を切っても表示が消えない液晶画面を搭載
新しいMy Bookシリーズのデザイン的な特徴として、文字が表示できる液晶画面がある。この液晶には空き容量などが表示されるが、自分で入力した文字を表示することもできる。「eラベル」と呼ばれるこの機能は、コンシューマー向けの外付けハードディスクとしては実にユニークなもので、しかも電源をオフにしても表示が消えない構造になっている。これは、最近話題の電子ブックリーダ「Kindle」と同様に電力が供給されていなくても表示が残る新技術を採用しているためで、複数台の外付けハードディスクを使用するヘビーユーザにとってはたいへん便利な機能だといえよう。ただし、日本語には対応していない。
eラベルはeインクという技術を採用しており、白と黒の粒子を電圧によって上下に移動して文字を表示する仕組になっている。左は、ウエスタンデジタルの「WD SmartWare」を使ってラベルを「WESTERNDIGITAL」から「MYCOMJOURNAL」書き換えた状態。右は画面を拡大したところ |
さらに同製品では、ファイルが作成されるたびに自動でバックアップを行う設定も可能だ。消去や上書きしてしまったファイルの復元機能やバックアップされているファイルを「ムービー」「写真」「音楽」「メール」「ドキュメント」「システム」といったジャンル別にビジュアルで表示する機能もある。大容量の外付けハードディスクになればなるほど、バックアップを取ったのはいいが、どのような種類のデータがどの程度保存したのかわからなくなってしまうことが多い。しかし、このビジュアル機能を利用すればそれを簡単に把握することができる。
診断機能は、「簡易SMARTステータス」「簡易ドライブテスト」「完全ドライブテスト」の3つのテストがボタンを押すだけで実行できるようになっており、テスト内容が複雑になるに従ってスキャン時間が、数秒、数分、数時間と長くなっていく。最も詳細にチェックする「完全ドライブテスト」は、不良セクタの検出が可能だが数時間を要する。
暗号化の機能は、一度設定すれば自動的にすべて暗号化されて保存されるので、盗難にあってもデータを読まれることがない強力なものだ。しかし、パスワードを忘れるとユーザ自身も永久にアクセスできなくなるので注意したい。
ウエスタンデジタルでは同社がこれまで重視してきた信頼性やデザインといった質の高さに加えて、これまでハードディスクメーカーがあまり力を入れてこなかった、ソフトやハードの操作性や視認性といった部分を充実させることで、ビギナーを含めた幅広いユーザ層を取り込もうとしている。その中心となるのが「WD SmartWare」である。同社では、今後もソフトウェア開発に力を入れていくことを表明しており、外付けハードディスクに「知能」を持たせる方向で進化させようとしているが、用途そのものを変える戦略もすでに実行に移し始めている。それが、パソコンを使用せずに写真や動画、音楽などを再生できる「WD TV Live HDメディアプレイヤー」だ。