「学習の狙いは4つ」のあると語るのは、この授業を担当する東京学芸大学附属竹早中学校の鈴木一成教諭。「ひとつ目には、情報端末を効率的に活用し、南太平洋の航海を仮想体験できること、2つ目には、高性能なスペックを持ったワークステーションを活用することで、広大な仮想空間で作業することができ、興味と関心を引き出すことができる」とする。

ワークステーションならではの高性能なコンピューティングパワーを活用して「Google Earth」を表示

授業では、太陽や星などを対象としたシミュレーションプログラム「Stella Theater Lite」や、世界中の地図を見ることができる「Google Earth」を利用。ワークステーションならではの高性能なコンピューティングパワーを活用することで、Google Earthでも、ストレスなくスムーズに拡大・縮小の表示ができる。

「生徒が興味を感じたことに対して、すぐに回答が得られるワークステーションのコンピューティングパワーは、生徒のモチベーションを維持するという点でも大きな効果がある。PCにはない効果をもたらす」(鈴木教諭)

生徒の関心に対して、次々と迅速な回答を提示できるワークステーションのパワーは、生徒のモチベーション維持と、学習効果を最大限にするために重要な役割を果たしているというわけだ。

そして、授業の狙いとして、残る2つを次のように語る。「3つめには地球の広大さ、多様性を実感すること、4つめには地理や数学、理科などを横断的に活用した航海計画を作成すること」。

タヒチからハワイを航海する距離と日数を実際に計算することで、地球の大きさや、海流や貿易風といった地球で起こる諸現象を実感。さらに、一般的に利用しているkmという速度単位と、船の速度に利用されるノットとの次元換算、気象や海流などの地球の数値的データを活用。さらに、問題解決能力も養えるとしている。

海流や気候にも配慮した航海計画を立案。リスク管理も盛り込む

たとえば、航海に利用する帆船の写真を見せ、そこに写っている人間の大きさから船の大きさを算出。また、浮力などのデータから、乗船人員や荷物の量を考え、さらに、物資の補給のためにどこに立ち寄るか、そこで利用される貨幣はどこの国のものか、どんな服装が最適なのかといったことも航海計画の基本要素として捉える。加えて、海流や気象の影響で航路がずれた時にはどうするか、船が転覆した時にはどうするかといった要素も計画のなかに盛り込む。

「最大の効果は、与えられたものに対して答えを見つけるのではなく、生徒自らが課題を発見し、それを解決すること。コンピュータを活用したシミュレーションだけでなく、書籍や資料集のデータ、ホワイトボードを利用した意見交換など、あらゆるツールを活用して授業を行う。通常、理科の授業では、塩水の濾過や蒸留などについても学習するが、帆船で航海する際に海の水を蒸留するためには、大量の燃料を必要とするため、その方法が使えないといった、実際の応用にも踏み込んで学習する。知識として覚えるだけでなく、シミュレーションを通じて、これを経験として生かすことで、学習効果が高まることを期待している」とする。

すでに成果は上がっている。

広い視野からの学習が可能になること、自ら学ぶ姿勢を作る環境が作られることから、生徒の間からも、「自分で考えることが楽しい」と、この授業を評価する声が上がる。また、鈴木教諭も「通常の授業に比べて、生徒の質問が活発になり、さらに質問の幅が広がっている」と語る。理科、社会科、数学の知識が横断的に必要とされる授業であるため、幅広い知識を学ぶということにもつながっている。

試算してみると、実体験としてタヒチからハワイへ航海を行うには約8000万円の予算が必要になる。これが仮想体験できることは、これまでにない教育方法の実践につながるというわけだ。「ミクロからマクロまで、視点や位相を動かすことで、疑似体験によって空間認識能力を育成できる。今後は衛星のデータをリアルタイムに活用して、授業に生かすことも考えたい。今回の授業を通じて、ワークステーションのコンピューティングパワーを生かすことでの成果を感じることができた。今後は、シミュレーションによる仮想体験を交えた授業を増やしたい」とする。

ワークステーションを活用した授業は、PCを利用した授業の次の形として注目することもできそうだ。