さらに将来をにらんだデバイスの研究として注目されているのが、炭素材料のグラフェンを使ったデバイスである。グラフェンは電子の移動度がSiよりもはるかに高いので、超高速のデバイスを原理的には実現できる。今回のIEDMでは、グラフェンの研究成果を一望できる特別セッション(セッション10、12月8日午前)が設けられた。また注目講演としてIBMによるグラフェンFETの研究を紹介した(講演番号10.2)。IBMは、トランジション周波数fTが50GHzと高いグラフェンFETを試作してみせた。

グラフェンを使ったデバイスに関する講演の概要

バイオエレクトロニクスでは、人工網膜の講演が注目される。Stanford Universityの研究成果である(講演番号26.2)。外形寸法が20μm~80μmと微小なシリコン太陽電池のアレイを人工網膜とする。3個の太陽電池で1個の画素を形成した。眼球のカーブに沿えるように、人工網膜の各画素は位置をずらせるようにしてある。このため、人工網膜のアレイは最小で半径5mmのカーブに追随できる。

Stanford Universityによるシリコン人工網膜の講演概要(講演番号26.2)。米国では加齢黄斑変性(age-related macular degeneration)と網膜色素変性症(retinitis pigmentosa)が中途失明の2大原因とされている

このほか、有機材料太陽電池セルの効率向上(講演番号37.8)、ランダム・テレグラフ雑音の研究(講演番号32.4と講演番号32.1)、インクジェット技術による有機トランジスタ回路形成(講演番号15.6)、電子スピンをデータ記憶に利用したシリコン・トランジスタ(講演番号9.2)、カーボンナノチューブ・デバイスの微細化(講演番号23.1)、レートニュース講演(講演番号28.7と講演番号13.7)を注目講演として紹介した。

有機材料太陽電池セルの効率向上に関する講演の概要(講演番号37.8)。Purdue Universityの研究成果

ランダム・テレグラフ雑音の研究に関する講演の概要(講演番号32.4)。日立製作所とIBMの共同研究成果。微細化によってランダム・テレグラフ雑音は増大するとされている。22nm世代のトランジスタでは、ランダム・テレグラフ雑音が大きな問題にならないことを示した

ランダム・テレグラフ雑音の研究に関する講演の概要(講演番号32.1)。NECエレクトロニクスの研究成果。ランダム・テレグラフ雑音の新しい解析手法を提案した

インクジェット技術による有機トランジスタ回路形成に関する講演の概要(講演番号15.6)。University of California, Berkeleyの研究成果。半導体層、配線層、絶縁層のすべてをインクジェット技術で形成した

電子スピンをデータ記憶に利用したシリコン・トランジスタの講演概要(講演番号9.2)。東芝の研究成果。強磁性体材料の磁気トンネル接合素子とシリコンFETを組み合わせた

カーボンナノチューブ・デバイスの微細化に関する講演の概要(講演番号23.1)。IBMの研究成果。チャネル長を145nmから38nmまで変えてカーボンナノチューブ・デバイスを試作したところ、短チャネル効果が現れず、オン電流が増大することが分かった。微細化によってデバイスの性能が向上する見通しが付けられた

レートニュース講演の概要(講演番号28.7)。0.039μm2と小さな面積のSRAMセルを試作した。National Nano Device LaboratoriesとUniversity of California, Berkeleyの共同研究成果

レートニュース講演の概要(講演番号13.7)。電子のバンド間トンネリングを利用したInGaAsトランジスタを試作した。The Pennsylvania State UniversityとCornell University、IQEの共同研究成果