食後酒の習慣が根付かない日本

いきなりの質問だが、「あなたはポートワインを飲んだことがありますか」。

ポートワインという名前くらいは聞いたことがある人も多いかと思うが、それを飲んだことが、あるかと聞かれて「イエス」と答える人はどれほどいるだろうか。

日本にフランス料理やイタリア料理のレストランが街に氾濫し、例えばフレンチなら前菜、→メイン→チーズ→デザート→コーヒー、イタリアンなら前菜→プリモピアット→セコンドピアット……など難しいメニューの名前に加え、そのスタイルやマナーまですっかり定着して久しい。

ポルトガルで造られるポートワイン

しかし、そこにはなぜか"食後酒"が組み込まれていない。欧米では食事の最後には食後酒を飲むのが一般的であるのに、日本においては食中にワインは飲んでも、食後にまで酒を飲む習慣は根付かない。食後酒はアルコールが強い、というイメージがすり込まれてはいないだろうか。確かにフランスのブランデーやマール(ブドウの絞り粕を蒸留したもの)、イタリアのグラッパ(基本的にはマールに準ずる)など、アルコール度数が40度を超えるものは多い。あまりアルコールに強くない日本人にとって(そうでない輩もいるが)、ヘビーなのもわかる。

ただ、世界は広い。食後酒はアルコール度数が高いものばかりだと思ったらそれは誤解である。しかも、食事の、いや1日の締めくくりに甘く官能的なそれを飲むと、「あー、今日もいい1日だった」と思える食後酒がある。それがポートワインなのである。

ブドウの国ポルトガルで造られるポートワイン

ポルトガル北部のドウロ地方。そこを流れるドウロ川沿いは一面のブドウ畑である。そして河口にあるポルトガル第二の都市、ポルトで造るワインだからポートワイン(英語読み)と名がついた。そもそも日本語では「葡萄牙」と書くポルトガル。この地のワイン生産は紀元3世紀頃のローマ時代まで遡れるともいわれており、ポルトガルはまさにブドウの国なのである。ちなみにこの「アルト・ドウロ・ワイン生産地域」は世界遺産に登録されている。

さて、ここからはパルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ協会(イタリア)、パルマハム協会(イタリア)、ポート&ドウロワイン・インスティチュート(ポルトガル)が2008年から3年間の予定で実施している「おいしい伝統 熟成ヨーロッパ」のキャンペーンの一環で行われたポートワインテイスティングセミナーを通して、ポートワインを探ってみたいと思う。

ポルトガルの地図を指しながら説明する中林正季氏

同セミナーは第4回ポートワイン・ソムリエコンテスト優勝者の中林正季氏を迎えてのもので、6種類のポートワインが用意された。

まず基本的なところからみなさんにポートワインをご紹介するとしよう。そもそもこの酒はどのようなものなのかというと、ブドウ果汁の発酵途中でアルコール度数77度のブランデーを添加して発酵を止めてしまうもので、酒精強化(フォーティファイド)ワインである。そのため、ブドウ本来の甘さを残したワインとなる。アルコール度数は19~22度。

使用するブドウ品種は、トウリガ・ナショナル、ティンタ・ロリス、トウリガ・フランセーザ、ティント・カンなど、すべて土着品種。添加するブランデーも同じ品種から蒸留している。

どのような種類があるかというと、「ポルトガルの宝石」と称されるところからまず思い浮かぶのはルビー色のものだろう。後述するカテゴリー(ルビー→リザーブ→LBV→ビンテージ)の順に、若いルビーほど深紅色が強く品質が上がるに従い琥珀色になっていく。実はルビー以外にホワイトもあり、エスナガ・カン、マルヴァジア・フィナなど土着品種の白ブドウから造られる。製法によって甘口から辛口のものまであり、辛口は食前酒にも向いている。他に、トウニーと呼ばれるものもあり、こちらは数種類のワインをブレンドし、異なる期間樽で熟成したもの。色は琥珀色。カテゴリーはトウニー、トウニー・リザーブ、エイジド・トウニー(10年、20年、30年、40年)、コレイタと分類される

さて、先ほどから出てきているカテゴリーだが、通常のルビーとトウニーに加え、次のようなカテゴリーがある。リザーブは、熟成年数の異なるワインをブレンドし、最低7年木樽で熟成させた高品質ポートワインを指す。年数表示したエイジ・ド・トウニーは、10年、20年、30年、40年熟成といった異なる年数にわたって樽で熟成させたワインをブレンドする高品質ポートワイン。表示年数はブレンドした平均熟成年数。

コレイタ(収穫年度表示ポート)とは、単年度のブドウから造られ、木樽で最低7年以上熟成された後に瓶詰めされる高品質トウニー・ポート。LBV(レイト・ボトルド・ヴィンテージ)は、ビンテージに次ぐ良質のルビー・ポート。単年のブドウを樽で熟成開始後、4~6年の間に瓶詰めされる。ビンテージは、最良質のブドウが収穫された年のみの限定生産。樽で熟成開始後2年~3年の間に瓶詰めされる最高品質のルビー・ポートとなっている。

少々混乱するかもしれないが「色(ルビー、トウニー、ホワイト)」と「品質(リザーブ、エイジ・ド・トウニー、コレイタ、LBV、ビンテージ)」によってカテゴライズされていると思えばよい。