個性溢れる「シャトーマルス」シリーズ
中でも中心となるのは「シャトーマルス」シリーズだ。マルスワインのベースとなるこのシリーズは「その土地の味(風土の味)」を表現するべく、主に3つの土地からそれぞれの個性溢れるワインを造りあげている。
1.白根地区
南アルプスの湧き水は御勅使川(みだいがわ)へと流れ込み、激しい蛇行や氾濫から礫(れき=石ころ)が形成される。この礫の多い土壌はミネラルに富むため、透明感のある酸味を残した甲州ブドウができる。この特性をいかすため、シュール・リー製法の辛口ワインに仕上げる。
2.穂坂地区
長い日照時間と南向き斜面の丘陵、そして500mという高い標高は寒暖の差が大きく、力強い土地である。そのためメリハリの効いたブドウが育ち、やや辛口の甲州やミディアムボディの赤を半年ほど樽で熟成させたワインとなる。
3.石和地区
笛吹川の蛇行と氾濫で形成された中流域にあるこの地は、砂質が多く繊細でソフトなブドウができあがる。これらは、クリオエキストラクシオン(冷凍濃縮法)を使った甲州クリオなど甘口のワインにすることが多い。
このように各地の特性を活かし、それぞれ異なる醸造法で造られたワインには、その土地の名がどの文字よりも大きくラベルに記されている。この「シャトーマルス」シリーズにいたっても、国産ワインコンクールやジャパンワインチャレンジなど毎年受賞リストに名を連ね、マルスワインの定番ワインとしてすっかり定着した感がある。
進化し続け、熟成の時を待つ
しかし、マルスワインの挑戦はそれにとどまることはない。常に新たな可能性を探ってまい進し続け、2007年からマルスワイン初のスパークリングワインとなる「ペティアン・ド・マルス」と甲府盆地で栽培された甲州ブドウを使った「甲州ヴェルデーニョ」を発売した。
甲州ブドウを使う「ペティアン・ド・マルス」は、シャンパーニュと同じ製法の瓶内二次発酵なので、口の中が痛くならない自然な泡が心地よい。香りは甲州種の持つハーブや柑橘系なのだが、テイストは極めて甘くないリンゴジュースのように爽やかで、後口にもベタつきがない。また、今年になってからは、国産ではほとんど見かけない250ml瓶の飲みきりサイズも発売。行楽のお供にもピッタリだろう。
「甲州ベルディーニョ」は、甲府盆地産甲州種のフリーラン果汁(圧搾前に自然に流れ出る果汁)のみを使用した辛口ワイン。ポルトガル語で「爽やかな緑」を意味するこの名の通り、青リンゴやグレープフルーツのような爽やかな香りと、余計な圧がかかっていない果汁使用ゆえに苦味が少ないやわらかな酸味となっており、合わせる料理を選ばない。この「甲州ベルディーニョ」は2006年がファーストヴィンテージでありながら、2007年の国産ワインコンクールで銀賞を受賞。2009年の国産ワインコンクールとジャパン・ワイン・チャレンジにおいては、銀賞をダブル受賞するという快挙も成し遂げている。
「その土地の味を表現する」という理念のもと、鹿児島から山梨へ。ブドウという大地の恵みを表現すべるくワイン造りを始めて、もうすぐ50年が経つ。その間、土壌の研究も進んだであろう。醸造技術も進歩したであろう。確実にクオリティは上がっている。そして、ワインに大切なのはなにより熟成だ。熟成に必要なのは言わずもがな、この"時間"なのである。流れ行く時間と共に、マルスワインのさらなる発展と熟成に期待したい。