世界中のWebサイトに高速なコンテンツ配信サービスを提供するアカマイ。同社の顧客にはAmazon.comやYahoo!などがあり、インターネットの利用者であればすべての人が同社の技術の恩恵を受けていると言っても過言ではないだろう。
ビジネスユース、ホームユースの双方において、インターネットの利用やコンテンツの量は増える一方であり、高速かつ安定したインターネットを維持するために、同社の役割もまた重要性が高まっている。
さらにIT業界では、クラウド・コンピューティングにどのように取り組んでいくかがカギとなっている。
今回は、米アカマイ・テクノロジーズの創業者であり、現在はチーフ・サイエンティストのTom Leighton氏に、同社の創業の経緯、独自技術に定評のある同社の今後の技術的な方向性について話を聞いた。
創業の理由は「技術を使ってもらいたかったから」
Leighton氏は同社のチーフ・サイエンティストながら、マサチューセッツ工科大学(MIT)の応用数学教授でもあり、MITコンピュータ科学人工知能研究所の応用数学グループを1996年の開設時から現在まで指揮している。
同氏は1995年にコンテンツ配信技術を発明した際、「事業化の予定はまったくなかった」と語る。しかし、共同創業者だったDaniel Lewin氏がMITのMBAの事業計画のコンペに興味を持ったことで、流れが変わった。
「MITのコンペに関わることで、ベンチャーキャピタル、インターネット事業者たちと知り合って、インターネット業界やビジネスについていろいろと学んだ。これにより、われわれのコンテンツ配信技術を使ってもらえば、彼らのビジネスにメリットがもたらされるだろうと思った」
したがって、同氏らは自分たちのテクノロジーをライセンス供与によって使ってもらおうと考えたのだが、インターネット事業者は彼らの技術を導入してくれなかったという。「学者は"象牙の塔に帰れ"と言わんばかりの扱いも受けた」
そこで考え付いたのが、「企業を立ち上げれば、自分たちの技術を使ってもらえるのではないか」ということだ。しかし起業後、しばらくは苦労の連続だったという。
ある日、同社の技術の真価を見せ付ける好機が訪れた。フットボールの試合と映画「スターウォーズ」の封切りが重なり、アクセスが殺到してWebサイトがパンクしてしまったのだ。そこで、そのサイトでは同社の技術を急遽導入した。これにより、サイトがすぐに復活したうえ、導入前よりもアクセス速度が速くなり、同社の技術に対する信頼性が一気に広まったそうだ。
インターネットのインフラは黎明期からほぼ変わっていない
インターネットの黎明期から、業界に関わってきた同氏。初期のインターネットと現在のインターネットにおいて、どのような違いあるのかについて聞いてみた。
「まず、利用量、コンテンツの量は大幅に増えた。現在は、My SpaceといったSNSや検索など、以前にはなかった方法でインターネットが利用されている。また、インターネットを利用するためのデバイスも大きく変わった。スマートフォンやiPhoneなど、モバイルデバイスでインターネットが利用されるようになった。5年前に、モバイルデバイスでHD動画を再生するなんて、考えられなかった」
一方、「インフラはゆっくりと進化はしているがほとんど変わっていない」と同氏は言う。SNS、クラウドといったインターネットベースの技術は増えているのに、意外な一言である。「プロトコルを考えていただきたい。インターネットが始まった時から使われているTCP/IPが今も使われており、変わっていない」
さらに、「テクノロジーに変化がないのはよいことなのか?」と同氏に聞いたところ、「見方による」という答えが返ってきた。
「インターネットが"誰かがコントロールできる"という性質のテクノロジーではないことは変わらない。また、経済的な事情を考えるとインフラを拡張することは簡単ではない。しかし現在、私は初期に256kの回線に払っていたコストよりも安いコストで30MBの回線を使えている。アカマイはこうしたインターネットのコスト削減にも貢献していきたいと考えている」