売上高倍増、不況下で破竹の勢い

今から約40年前に東京・国立で誕生した「すた丼」。ニンニク風味の醤油ダレで炒めた豚肉をたっぷりのせたボリューム満点の丼だ(通常サイズでごはんは450g)。この丼が男性を中心に支持され、"多摩グルメ"として抜群の知名度を誇っていた。2004年には多摩地区(東京都市部)から東京都23区内に店舗進出、そして今年9月にはセブン-イレブンで商品化されるまでに至った。

誕生から38年を経た今でも、店の売上げの約7割を占める目玉商品「すた丼」(通常サイズ580円・東京23区外店舗の価格)

そんなすた丼を提供するのは「名物すた丼の店」「伝説のすた丼屋」(2004年以降にオープンした店舗は「伝説のすた丼屋」の屋号になっている)。現在は東京都と神奈川県で23店舗を展開している。また、今年9月には、すた丼に使う豚肉をイタリア産のホエー豚に切り替えて品質アップを図った。

"一丼相伝"の赤文字が目立つ「名物すた丼屋」。写真は江古田店。店舗の規模は18坪前後を標準としている

タイミングを同じくして、前述の通り、「セブン-イレブン」での販売も開始(詳細は既報の通り)。当初、多摩地区を中心としたエリア限定販売だったが、10月12日からは都内全域の「セブン-イレブン」店舗へと販路拡大したという。

現在、すた丼で1日に消費する豚の総量は約1t。今秋の大阪への出店を皮切りに、今後も名古屋や博多など、全国制覇に向けて続々と出店が予定されている。それに連動し、経営会社であるアントワークスの売上高も、ここ3年で倍増。この不況下にあって、破竹の勢いのなんとも頼もしい企業である。次ページでは、アントワークス代表取締役・早川秀人さんにすた丼の人気の秘訣や躍進までの道のりについてお話をうかがっていく。

庶民の味方であるすた丼

――ズバリ、すた丼の人気の理由はどこにあるのでしょうか。

他店にはない圧倒的な個性が人気の要因だと思います。まず特徴的なのが、そのボリューム。お茶碗で2杯以上の白飯を使っているので、一般の女性には食べきれないほどの量なんです。でも最近では"肉食系女子"も増え、しかも"おひとりさま"で丼を食べていかれる女性も多いです。ちなみにこのボリュームで、平均客単価は650円です。

2代目として陣頭指揮を執るアントワークスの代表取締役・早川秀人さん。実直な性格は先代譲りか

――"がっつり"で、しかもリーズナブル。なんともうれしい存在です。

量は多いですが、食べ飽きない点も特徴的だと思います。その決め手になっているのが、1971年の創業以来ずっと味を守りぬいてきた秘伝のタレです。このタレのおかげで、どんどんごはんが進む、といった感じです。

――タレの特徴を教えてください。

自分たちでニンニクを手剥きするところから始め、それに醤油を加えて、何日も寝かせて熟成させた香ばしいタレです。社内でもタレの調合ができるのは私も含め、数人しかいません。文字通り、門外不出のタレなんです。すた丼は、注文ごとに油通しして旨みを封じ込めた豚肉を非常に強い火力で長ネギと一緒に炒め、このタレをかけて仕上げます。通常は2分程度で一気に仕上げます。オープンキッチンの店舗なので、中華鍋を扱う調理のライブ感も魅力になっていると思います。

――豚肉をイタリア産に変更されましたね。

すた丼のおいしさをよりアップさせるために変更しました。イタリア産ホエー豚は、標準的な飼育期間の1.5倍の長さをかけて、大自然の中でじっくり育てられます。飼料は穀物が主体ですが、他にホエー(乳清)も飲ませて育てるので、柔らかくて臭みがなく、かつ脂身の旨味が濃厚です。保湿性に富む肉なので、テイクアウトにしてもおいしく味わえます。

――ホエー豚はすんなりと商品化できましたか。

とてもキメの細かい肉質なので、当初はタレとのなじみが悪くて苦労しました。しかしいまは試行錯誤の末、豚肉を1.5mmとやや薄めにスライスすることで、タレとの一体感をもたせています。丼に原価の高いイタリア産豚肉を使うのは、当社が国内初だと聞いています。