――舞台となった戦慄迷宮は実在のお化け屋敷ですね
清水「それも、3Dで撮ること同様、タイトルとして決まっていましたからね。それで、元の脚本にはなかったんですが、シナハン(※)の際に見つけた螺旋階段を重要な場面として取り入れました。もともと危険防止のために付けてあったネットや金具を全部外してもらったり、富士急ハイランドには全面協力態勢をとっていただけたので。とは言えお化け屋敷ですから、人の目と一緒で暗いと立体感も損なわれるんですよ。そこは撮影・照明スタッフ共に頭を悩ませました」
※シナハン=シナリオ・ハンティング。脚本家がシナリオを書く際、実際にロケ地を訪問して構想を練ること
――撮影期間中も昼間は普通にお化け屋敷として運営していたと聞きました
清水「夕方、お客さんがはけてから閉園時間になったら撮影の準備を始めるんです。スタジオのセットなら、今日撮りこぼしたところの続きを明朝から撮るのでこのままでいいやってなるんですけど、今回は朝にはお客さんが来てしまうので、色々改造した場所を全部、元通りに戻さないといけないんですよね。しかも子役が5人いて、優先的に終わらせてあげないと……まぁでも子供が出てくる設定自体、反対を押し切って僕が加えたんですけどね(笑)」
――いつもとは違う、かなり特殊な撮影態勢だったわけですね
清水「本当に特殊でしたね。夜中に撮影しているので、当然その場所以外は真っ暗なんですよ。ちょっと不思議な感じでしたね(笑)」
――その状況は怖いですね
清水「そうですね。だから一番広い入り口のロビーが、みんなの待合室になっていて、部屋は他にもいっぱいあるんだけど誰も行こうとしないんです(笑)。一度、二人の造形スタッフが、準備部屋で待機したまま眠っちゃって……。目覚めてドアを開けたら、その部屋以外、建物内が全て真っ暗……実はその日、僕ら撮影の本隊は早目に終えて、気付かず(っていうか忘れて)ホテルへ帰っちゃってたって事がありました。深夜のお化け屋敷に取り残された二人に後で愚痴られました。確かにそれは怖いかも(笑)」
――監督ご自身もお化け屋敷はお好きですか?
清水「嫌いじゃないけど、怖くは無いです。幼少期は怖がりで嫌いでしたが(笑)。でも多分、だからこそ、今があるんです。人為的なものより、ただ夜道を歩く方が怖いし、ワクワクしますね。想像が働くし。だから戦慄迷宮は凄い!! 本当にただ歩くだけですからね!」
――今回の映画でも「想像力」が一つのポイントになっていましたね
清水「そうですね。誰しも子どもの頃にうろ覚えだけど、何か凄い事があった気がするとか、あの時の転校生は今どうしてるだろうとか、そういう曖昧な記憶や感覚ってあると思うんです。それを恐怖の対象にしたいというコンセプトがありました。意識と別に体は憶えてますからね」
――霊やお化けというよりも、人間の内面を描くような映画になっていました
清水「若者5人の、お化け屋敷を舞台にした、3D映画、しかも『呪怨』の監督……って聞いたら、たぶん誰もが派手な直接的恐怖描写の飛び出し映画を想像するし、期待するでしょうね。でも、サービス的な飛び出し効果ばかり注目されてる3D技術への模索も含めて『そういう他でも観るのはもういいから、本作では裏切るぞ!』って思いがあったので、別の領域への挑戦ではありました。だから、期待はずれに感じる人もいるかもしれないですね(笑)。ただ作り手としては、同じ場所にいる感覚は息苦しくて仕方ないんです。言ってみれば僕にとって『呪怨』という代表作は"壁"なんですよね」
――メインとなる5人の俳優陣についてはいかがでしたか?
清水「良い意味で地味ですよね(笑)。プロモーションとしては、例えば『あのアイドルが!』という売り方がやりやすいのかもしれないですけど、今回は派手に露出しているグラビアアイドルやモデルといった方をなるべく入れずに、10代20代の若手で"俳優としてやっていくんだ"っていう感覚を持っている人にお願いしたいと思っていました。それで、まず前田愛さんという軸を置いて、彼女にやってもらえるというところから成立したキャスティングだったんです。
柳楽くんに関しては、僕はあまり知らなかったんだけど、凄く感覚的な芝居しか出来ない妙に不器用な感じに賭けたかったし、勝地くんは真逆なくらいに全うで、且つ辛辣な若さ故の強がりや憧れを自身に強いている感覚の持ち主で、二人の違いが面白かった。勝地くんは嫌がるかもしれないけど、僕自身の投影があるとすれば彼の役が一番近いかもしれない。蓮佛さんは前から気になってたんですが、変に前に出過ぎないのに"そこに居る"不思議な可愛いクラスメートみたいな感覚で、由紀って役にはバッチリでした。
水野さんはもう……天才です。16歳にして、理屈や感覚の狭間で年齢や経験の壁を乗り越えるべく努力してる真の女優ですね。もっと楽に若さを楽しんじゃえば? 息苦しくない? って心配するくらい志の高い子です。俺も見習わなくちゃ!って思う位、尊敬します」
――監督ご自身は今後の日本の3D映画界についてどう思われますか?
清水「『呪怨』の時もこれからのホラーはどうなるかって質問されたんですけど、そればっかりはわからないですよね。わかったら楽なんですけど(笑)。僕自身は3Dという技術が演出として生かせるのであれば今後も撮っていきたいと思っています。思いの他、可能性の広がりを感じたし、"コケ嚇し"だけではない演出でのセンスを問われる分野だと思うので。今のところ"トーキー"や"総天然色化"ほどの映画の改革にはならないにしても、CGが導入された位の変革はあり得ると感じています。慣れも早そうな気がしてますが、取り入れ方・遣い方次第で如何様にもジャンルを問わない名作を生み出せると思います」
『戦慄迷宮3D THE SHOCK LABYRINTH』は全国ロードショー中。
(C)ショック・ラビリンス・フィルム・コミッティ2009
しみず・たかし
1972年7月27日生まれ 群馬県出身
近畿大学芸術学科で演劇を専攻しながら脚本家の石堂淑朗氏に師事。1999年、ビデオ版『呪怨』『呪怨2』の脚本と監督を務める。2001年、『富江 re-birth』で劇場用映画監督デビュー。翌年には劇場版『呪怨』が大ヒットし世界20カ国で上映される。2003年には劇場版『呪怨2』を脚本・監督、2004年にはサム・ライミ制作の米国版『THE JUON/呪怨』でメガホンを取り、2週連続の興行収入No.1となる。同年の監督作『稀人』ではベルギーのブリュッセル・ファンタスティック映画祭グランプリ(金のカラス賞)を獲得した。