一般用医薬品のネット販売を規制する厚生労働省の省令について、ケンコーコムが国を相手取り、医薬品ネット販売の権利確認と省令の無効確認・取消を求めた訴訟の第3回口頭弁論が20日、東京地方裁判所で行われた。
「準備書面」により互いの意見を主張
省令は、「薬事法施行規則などの一部を改正する省令」で、改正薬事法で定める「第1類」「第2類」「第3類」の医薬品に関し、第1類・第2類の医薬品のネット販売を規制する内容となっている。同省令には緊急措置として、離島居住者や以前からの継続使用者に対して、伝統薬などの薬局製造販売医薬品と第2類医薬品の通信販売(ネット販売含む)ができるようにする経過措置が盛り込まれた上で、2009年6月1日に施行された。
経過措置を含めて同省令に反対するケンコーコムは2009年5月25日、日本オンラインドラッグ協会会員で医薬品・健康食品ECサイト「健康食品店ウェルネット」を運営するウェルネットとともに、医薬品ネット販売の権利確認と省令の無効確認・取消を求める訴訟を、国を相手取り東京地裁に提起した。
7月14日には第1回、9月1日には第2回の口頭弁論が行われた。この間、ケンコーコムら原告側は、第1回口頭弁論で意見陳述を行ったほか、7月30日に「準備書面(1)」を被告側に送付、さらに8月30日には、訴状を補完をするための「準備書面(2)」を被告に送付した。原告側はさらに、「求釈明(質問への回答を求める)」も2回にわたり行っている。
一方、厚生労働省はケンコーコムらの意見陳述に対する反論を記した「準備書面(1)」を8月21日に原告側に送付していた。
原告側は、意見陳述や準備書面(1)(2)などで、以下のような主張を行っている。
ネット販売に起因する副作用のリスクは何ら実証されておらず、規制の根拠がない
薬事法では、購入者が情報提供が不要であると言えば、1類の医薬品でも情報提供を省略して売買ができると定めてある。それにもかかわらず、省令では、安全性の確保ができないとして1類・2類のネット販売が禁止されるのは、消費者の自己決定権を侵害するものである
ネット販売禁止は、消費者が必要な医薬品の入手を困難にして、その健康と生存を脅かす危険な規制である
薬事法36条の6は、情報提供などについて定めることを省令に委任しているだけで、どこにも対面の原則を規定していない。従って、対面の原則を規定する今回の省令は法律の授権を欠き、憲法第41条に違反する
改正薬事法後の状況を見ても、店頭での販売に大きな改善は見られない。他方で、原告らには大きな損害が発生している
経過措置の不合理性として、離島以外で店頭に出向くのが困難な利用者などは救済されない。また、事業者にとっては、継続使用者の判定は著しく煩雑で、コストがかかる
これに対し、厚労省側は、準備書面(1)において以下のように主張している。
医薬品にはリスクが不可避であり、できるだけリスクを回避するためには、医薬品に関する専門家が関与して販売することが重要である
現状を見ると、専門家が不在であったり、適切な情報提供が行われていない。購入者においても、医薬品に関する適切な知識を持っているとは限らない。
こうした実態に鑑みると、販売業者に専門家を関与させリスクの比較的高い医薬品に関して対面で情報提供を義務付ける規制がどうしても必要である。(省令により)規制をすることは合理的な制約であり、憲法22条(職業選択の自由・営業の自由)には違反しない
第3回口頭弁論で原告「長々と憲法論議をする時間ない」
10月20日に東京地裁第522号法廷で行われた第3回口頭弁論では、原告側が「準備書面(3)」を陳述。さらに、被告側は、「原告による求釈明に対する回答書(2)」と、「準備書面(2)」を陳述した。
これらの書面の確認の後、裁判所では以下のようなやり取りが行われた。
被告 (今回原告側が陳述した準備書面(3)においては)憲法に関する学説を体系的に論じられている。(これに対しきちんとした)主張・立証を行いたいので、(反論する)時期については2カ月程度いただきたい。
原告 ここは学説を競う場ではない。難しい議論や長々と体系的な議論をやる必要はない。憲法論は本件に必要なところだけやればいいのであって、(反論のために)2カ月もかかるわけはない。原告側は(省令施行後は医薬品販売部門の)売上が半減しており、毎日毎日損失を被っている。憲法論のために時間がかかるのは納得がいかない。
裁判長 被告は12月上旬までに反論し、(結審となる第4回口頭弁論について)年末に期日を設け、それまでに原告側が再反論することでいいか?
原告 はい。
裁判長 (原告側の)論点の補充はいつか?
原告 11月10日までに行う。
裁判長 裁判所としては、12月24日午前11時半に最終の期日を設けたい。12月7日までに被告側から(原告側の準備書面(3)への)反論を行い、原告は(再反論を)12月21日まで、最悪でも22日までにいただければ。また、被告側は、(改正薬事法に関し)内閣法制局審査のために提出した資料の中で、(省令の根拠となった)対面販売の要否について参考になるものがあれば提出してほしい。
被告 11月中に提出したい。
原告 できるだけ早くお願いしたい。
裁判長 あればできるだけ速やかに。11月20日目標でいいですか。
被告 はい。
裁判長 それでは、12月24日の結審を目指して。閉廷します。