新宿~渋谷
エアタグの数は単純に人口に比例すると思われるので、利用者が多そうな山手線の車内からセカイカメラで外を見つつ、ぐるりと都内を一周することにする。
混雑時に乗り込んで迷惑をかけてはいけないので、なるべく人が少ない時間帯を狙うも、さすがに乗客はゼロではない。
ドアのそばに立ち、iPhoneを車窓に向けて構えている僕はどう考えてもちょっとおかしな人だ。何とも言えない視線が突き刺さる。
椅子がわりと空いていたので座って誤魔化そうかとも思ったが、そうなると車窓と逆を向いてしまうため、体をひねり続けるという不自然な態勢をとる羽目になってしまう。ダメだ。
そんなことを考えながらもじもじしているうちに代々木を通り過ぎ、電車は原宿へと差し掛かった。
エアタグは順調に車窓を流れていく。思ったよりも数は多くないが、よく考えれば移動し続けている電車の中からエアタグを設置する人はそんなにいないだろうから、今見えているタグは遠くのものをたまたま車内から捕捉しているだけなのだろう。
ただし、時折セカイカメラがタグデータや現在位置を取得し直しているのが気にかかった。データ取得状態に入ると、当然だがエアタグは見えなくなってしまう。GPSもこのスピードになると追いつけないことがあり、位置情報の再取得を頻繁に行うようになった。
うーん……何か想像していたのとちょっと違うような……。
恵比寿~五反田
渋谷を出たあたりで、上げっぱなしの腕が疲れてきた。仮想世界に触れ続けるのも体力が必要らしい。早くセカイカメラの機能を付けたメガネが発売されないだろうか。それならだいぶ楽になるのに。
……というか、それってもろに『電脳コイル』だ。あのアニメはわりと近い将来の日本の姿そのものなのかもしれない。
と、ここで突然セカイカメラの挙動がおかしくなった。
混雑によるエラー発生である。セカイカメラは何度も起動していたが、こんな表示は初めてだ。何が混雑しているのかよくわからないが、とにかく「OK」を押しまくってみる。
……そうしたら、次はセカイカメラごと落ちた。
突然のアプリの強制終了に愕然としたが、別に壊れたわけではないらしい。再起動するとセカイカメラは無事データの再取得を始めた。どうやらあまりにも頻繁にデータや位置情報の取得を繰り返したため、アプリが付いてこられなくなったようだ。
何とか立ち直ったところで再びエアタグ探しの旅に戻る。この画像は「目黒」駅付近だ。タバコらしき写真と、何だかよくわからないメモ帳の落書きのようなエアタグが目に飛び込んできた。
……エアタグの写真の解像度はたいしたことがないため、拡大しても何がなんだかわからないものが多い。しかし、それでも「椿ビル」とか「村田製作所」みたいなごく普通のタグに飽き飽きしていた僕にはとても新鮮だった。
そうだ、僕が求めているのはこういう"何となくノリで置いてしまったネタタグ"なのだ!
――そんな僕の期待に、さっそく五反田駅が応えてくれた。
良い。この何だかよくわからないがちょっと愚痴っぽい叫びを託したエアタグ、実に良い。構内で捕捉したタグではあるが、たぶん駅付近のどこかに置かれていたのを拾ってきたのだと思われる。
いちおう店名とおぼしき部分にはモザイクをかけておいた。だが、皆さんは忘れないでほしい。五反田の一角で、ひろ吉さんが「マジぼったくりだー」と叫んでいたという事実を……。
いや、そんなことはどうでもいい。
続いて大崎駅である。
大崎~大塚
本日のシュールエアタグNo.1である。鰯(いわし)さんという名前も微妙に気になるが、なぜこの写真をわざわざ設置したのかがまったくわからない。扉には何やら張り紙がしてあるようだが、例によって解像度の関係でまったく読めない。もしどこかで鰯さんがこの記事をご覧になっていたら、ぜひ伺いたい。これは一体何ですか? と。
そして電車は品川駅へと差し掛かった。
ここには謎の画像がぽつんと置かれてあった。謎の画像というか、どう見ても時刻表である。駅構内にわざわざ自分で撮影した時刻表を設置する――そのよくわからない対抗姿勢には、男気を感じずにはいられない。
ところで、先ほどから駅のホームばかり紹介しているということに気づかれた方もいるかもしれないが、これには理由がある。
このへんから、なぜか移動中にエアタグをまったく見かけなくなってしまったのだ。
ご覧の通り、田町付近で「タワー」というエアタグを見かけた程度で、他はさっぱりである。
……さすがに東京、神田、上野あたりの駅はホームに差し掛かるとものすごい数のエアタグが見えるのだが、電車が走り出すとなぜか捕捉できなくなってしまう。
この現象、果たしてセカイカメラが何かエラーを起こしていたのか、それとも僕の車内での位置取りが悪かったのか、はたまた本当に捕捉できる範囲にエアタグがなかったのかは謎である。
驚いたのは、秋葉原付近でさえもエアタグを捉えられなかったことだ。秋葉原に無数のエアタグが乱立していることはすでに書いた通りなのだから、こうなるとセカイカメラの方がおかしくなったとしか思えない。
そうやって、うだうだ考えている間にも電車は走り続け、気づけばめぼしいエアタグを見つけられないまま大塚駅を通過し、池袋へと近づいていた。
池袋~新宿
池袋に到着。ここまでくるともう少しだ。
さすがにエアタグがぼろぼろと見えるが、その中でも特に目を引いたのが、次の画像だ。
なんだろう……これ……。
おそらく画面奥の人物を撮りたかったのだと思うが、いったい何をしている人なのかは不明である。路上パフォーマーなのか、それとも何か商売でもしている人なのか……。
そしてなぜこの写真をエアタグに? ……というお決まりの疑問は相変わらず解けないまま、電車は池袋を後にしたのだった。
こちらは目白付近で見かけたエアタグである。「TOKYOCITYチャーチ近い」という素っ気ない一言ではあるが、これを見た人は「そうか、TOKYOCITYチャーチが近くにあるんだな」と思うだろう。エアタグによるナビゲーション。それこそがセカイカメラの本来の使い方なんだろうなという当たり前の事実をここへきて再確認する。「セカイカメラの車窓から!」とか言いながらはしゃいでいた自分がちょっと恥ずかしい。楽しいけど。
高田馬場駅ではこんなエアタグを見つけた。液体貴金属さんがこの後どうなったのか、非常に興味をひかれるが、いかんせん5日も前に置かれたタグなので結末はわからない。ただ少なくとも、液体貴金属さんは早く別のトイレに直行するべきで、ここにエアタグを立てている場合ではないような気はする。
同じく高田馬場に置かれたエアタグ。清々しいまでに何の意味もないタグである。「かんちゃんです」と自己紹介しているにも関わらず設置者が「ちな」さんだったりと、色々つっこみたいところではあるが、まあそれはいい。
しかし、こういう"特に意味もなく置いてみたタグ"は今後どうなっていくのだろう。このままセカイカメラが一般化していけば、いわゆる"ノイズタグ"も大量に生まれるはずだ(設定で表示タグのフィルタリングは可能だが)。冒頭で書いたエアタグテロの件も含め、ユーザーが増えるにつれてそのあたりの問題は必ず発生してくるだろう。
ということを考えているうちに新宿へと帰ってきた。
GPSが機能しなくなったり、セカイカメラが落ちたり、エアタグが取得不可能になったりと、想像していたよりもはるかに大変なぶらり旅ではあったが、ひとまず楽しかったのでよしとしよう。
今もバージョンアップを続けているセカイカメラが、今後何か新しい可能性を切り開いてくれることを期待したい。
……ところで、新宿に帰ってきたら街中に「夏男」というエアタグが溢れかえっていたのだけど、これはいったい何なの? あやや?