つづいて、会計/財務に特化した人材育成を主要事業とするアビタスの代表取締役社長 三輪豊明氏より、IFRSの最新動向について説明が行われた。
EU域内でスタートしたIFRSであるが、現在注目すべきは「米国の動向」だと三輪氏は言う。IFRS適用を米国が受け容れるかどうかがIFRS拡大を握るカギだと言われてきたが、現在、「米国はすでにコンバージェンスからアダプションへと方向を転換している」状況にあるという。米国会計基準とIFRSのコンバージェンスに向けた合意(ノーウォーク合意)がなされたのが2002年、その後、2006年にはEUと米国の間で互いの基準の差異をなくしていく方針が覚書(MOU)として交わされている。昨年のリーマンショックに端を発する金融危機により、IFRS導入のスピードはやや落ちたものの、政権交代などもあり、現在は「世界がIFRS採用に向かう状況を受け、SECは今年9月、米国企業のIFRS導入にリフォーカスすることを表明している」(三輪氏)という。「米国企業の大勢はグローバルで単一の高品質な会計基準が必要であるという認識で一致している。現在は導入方法を検討する段階にある」(三輪氏)。2011年には強制適用するか否かの決定がなされる予定だ。
この米国の"IFRS適用"の流れを受け、日本の方針も変わりつつあるという。2007年8月、日本は国際会計基準審議会(IABS)と共同声明の形で「東京合意」を公表した。ここでは"アダプションではなくコンバージェンス"、つまり採用は拒否したものの、日本の基準をIFRSに近づけることを約束している。具体的には2011年6月までにコンバージェンスを完了することになっているが、この9月に企業会計基準委員会(ASBJ)から発表されたプロジェクトの更新状況によれば、一部のスケジュールを1年前倒しし、2010年には重要な項目(企業結合、無形資産など)のコンバージェンスが完了する予定だという。三輪氏によれば「明らかに米国の動きに合わせ、日本の動きが加速している」状況にある。
今年6月に金融庁の企業会計審議会がIFRS適用を検討する"日本版ロードマップ案"を公表した。ここではIFRS採用のタイミングについて2つの提案がなされている。
- IFRSの任意適用については、2013年3月期の年度財務諸表から、一定の上場企業の連結財務諸表に認めること
- IFRSの強制適用については、2012年を目処に判断すること
これに沿うことになれば、早くて2015年に強制適用が開始される見込みだという。
そして、国家レベルの動きにあわせ、民間レベルでもIFRS導入への動きが活発になりつつある。ASBJと日本公認会計士協会、東京証券取引所グループ、経団連によって構成される「IFRS対応会議」がその最大の機関で、IFRS導入にあたっての課題の抽出、方針/戦略の検討、具体策の提案などを行う。9月には活動計画の一環として「IFRS導入準備タスクフォース」が開始、パナソニック、日立製作所、三菱商事、キヤノン、ソフトバンクなど、日本を代表する上場企業19社と共同で、導入における問題点の洗い出しを行っている。また、IFRSパートナーコンソーシアムとは別に、事業会社の経理/財務部門による「IFRSコンソーシアム」も7月に発足、定期的な意見交換が行われている。
「IFRS導入は個別企業で考える段階を過ぎ、日本企業の競争力を高めていくために皆で検討するという動きが強まってきている。何をやるのか(what)ではなく、どうやってやるのか(how) - より実務的な議論と取り組みに入っていく必要がある」(三輪氏)、つまりすべての活動は"国益のため"と断言する。