本や雑誌といった出版物のアートディレクションを数多く手がける松田行正さん。早くからMacのDTPに移行した松田さんにとって、快適な作業環境は「仕事の効率にも直結する重要なポイント」だという。
デザインのプロが選ぶ道具はどんなものかを聞いてみたい! そこで、お気に入りツールを伺った。
松田行正さんがMacでのDTPを導入したのは今から20年近く前の1989年から1990年頃のこと。全篇ダイアグラムで構成された『絶景万物図鑑』の制作後に、周囲からイラストや画像を扱うならMacを導入した方がラクになるのではないか? とアドバイスを受けたことがきっかけだった。
「もちろん、当時は今ほど精密な線のキレや輪郭が描けるほどマシンスペックも高くありませんでした。印刷してみると、線や文字が滲んだりぼやけたり。今ではトラブルとかエラーの部類になるかもしれませんが、当時はそうした仕上がりが面白くて味があったんですよね。それに、ちょうど同じ頃『牛若丸』を起ち上げて自費出版を始めていたので、すべての工程を自分でできる、しかも写植に掛けるコストが減らせる、という部分に魅力を感じました」
Macを導入してから、非売品の印刷物制作などを経て少しずつ新しい環境へ移行してきた松田さん。93年以降は出版社でもある『牛若丸』の本格稼働となり、完全にデジタル環境にシフトした。
「レイアウトソフトもQuarkXPressしかない状態で、Macで仕上げた物をそのまま印画紙出力、版下として印刷会社に入稿していました。もちろん、欧米製のソフトではきちんとした日本語組版はできません。でも、設定を知り尽くすことで自分が納得できる仕上がりは得られていました。あまりに使い込みすぎて〝Quarkマスター〟を自称していたくらい(笑)。現在はMac OS X環境でAdobe InDesignを使用しています。Adobe InDesignは、日本語組版に対して高いレベルで実現できますね。改めて、日本語組版の意味を捉え直すという意味でも、画期的なレイアウトソフトだと思います」