EX-H10は、1回の充電で1,000枚撮影できる長電池寿命を実現。1週間程度の旅行であれば旅先で充電することなく、毎日撮影ができる。さらに「鮮やか風景」と「もや除去」という「風景メイクアップ」機能で旅先の想い出をキレイに残せるという。そこでEX-H10の企画を担当されたカシオ計算機 商品企画部の今村圭一氏に開発コンセプトや経緯、カメラの特徴について語っていただいた。

――まずEX-H10の開発コンセプトについて教えてください。

カシオ計算機 QV事業部 商品企画部 第二企画室 今村圭一氏

今村圭一(以下、今村)「EX-H10の開発テーマはズバリ『旅』です。『旅行とは何なのか』を見つめ直すことからスタートしています。旅行には近場へ日帰りで行くものから飛行機に乗って北海道や沖縄など、そして海外旅行までいろいろあります。日本人ならどれくらいの日数で旅行するのかを考えてみると、海外旅行の場合は頑張って10日くらい、北海道や沖縄なら1週間くらいではないでしょうか。じゃあその1週間から10日、無充電で撮影できるカメラを作れないかというのが最初でした。

圧倒的な電池寿命を持ち、旅に持っていったときに電池切れを起こさないことをメインコンセプトとしながら、旅行に持っていったときにどのように使っていただけるのかを考え、仕様を詰めていきました。光学的な部分では広大な景色を撮影できる広角レンズ、そして遠くにあるものを精細に写すハイズームも必要です。その結果、この大きさ、薄さのカメラの中でもっとも広角な24ミリ(35ミリ換算)からの10倍レンズを搭載しました」

有効1210万画素1/2.3型CCD搭載の「EXILIM Hi-ZOOM EX-H10」

――CIPA規格準拠で1,000枚撮影できるカメラということですが、開発で苦労されたところはどこですか。

今村「長電池寿命には早くから取り組んでいて、従来モデル『EX-Z300』から『EX-Z400』に移行した際に省電力化に大きな進歩がありました。EX-H10に搭載されているエンジン(画像処理プロセッサ)はEX-Z400と同じ『エクシリムエンジン4.0』です。EX-Z400では1回の充電で550枚撮影可能となっており、これに回路設計の改良やバッテリー容量増加により、最大700枚程度にまで伸びると予想されていました。ただ1,000枚という1ケタアップを達成するまであと300枚を一体どうするのか。電力を2割、3割削るというのは、我々にとって非常に遠い目標でした。

EX-H10に搭載しているバッテリーは今回新たに開発した『NP-90』というもので、従来より容量が大きくなっています。しかし容量を大きくしただけでは従来の2倍撮れるようにはなりません。当初このバッテリーが採用されることが決まっても、エンジニア達は1,000枚達成に懐疑的でした。しかも光学4倍ズーム機であるEX-Z400とEX-H10ではズーム倍率も違います。EX-H10の方がレンズ枚数が多く、レンズの球も重いので、レンズを駆動するモーターのトルクがその分必要になるのです。

付属バッテリー「NP-90」(右)は従来のバッテリーより容量が増えているが、大きさ的にはあまり変化はない

『1回のフル充電で1,000枚』と口で言うのは簡単ですが、実際に消費電力を落とすのは大変な作業でした。CIPAの電池寿命計測の条件は実使用よりも若干厳しいものになっていますので、どういうことをやると電力が減るのか、100以上の項目をリストアップして実際に行った対策が70以上でした。身を削るような思いで電力を落としていってやっと1,000枚というレベルに到達したのです」

――その項目にはどんなものがあったのでしょうか。

今村「カメラにはCPUがあり、クロック周波数で動いています。オートフォーカスや露出の計算は超ハイスピードに動かなければいけないので、クロック周波数を思いきり上げます。ただいつもフルスピードで動いていると電力をたくさん消費するので、どこでクロック周波数を落としたらよいのかを検討しました。また、ずっと動いている制御をどのタイミングに止めたら性能に支障がないのかなど、いろいろ試行錯誤を繰り返しました。

実際デジタルカメラはいろいろな回路が同時に動いているのですが、どのタイミングに、何なら止められるのか、を綿密に計算して、実際に止めてみる。止めてみるとカメラが動かない。じゃあこれは止められない。というトライ&エラーで繰り返しながらひとつひとつ当たっていきました。レンズを駆動するとき、レンズと絞りが同時に動くと電力はどうなるのかを調べ、時間帯をずらすと電力消費が下がるかもしれないなどと仮説を立て実験していったのです。さらに消費電力を落とすために、開発だけでなく生産現場にまで足を運びました。

北海道旅行で1,000枚撮影を実証。バッテリーをもたせるより、1,000枚撮り続けるほうがずっと大変な作業だったという

電力に関係ないと思われるようなことも、テストしました。強い意志を持って地道に積み上げる、非常に泥臭い仕事でしたね。アイディアはいろいろ出るのですが、一向に改善しなくて現場の雰囲気が重くなることもありました。電力を削るディスカッションを始めてから5ヶ月あまり、特別なブレークスルーがあったのではなく、2%電力を落とすという、撮影枚数に換算すると2、3枚のことを積み重ねることでようやく1,000枚を達成したのです。

実のところ、性能を落とす『省電力モード』で1,000枚達成する方法をとることもできました。たとえば液晶の輝度を頭打ちにする、液晶の表示を30fpsから15fpsに落とすなどです。ただ電力の削減に携わったエンジニア達は『お客様に不自由をかけてまで1,000枚達成をしたくない』と考えていました。結果、省電力モードを使わなくても1,000枚を達成できたのです」

――このカメラに省電力モードはないのですか。

今村「いえ、出荷時はオフになっていますが、省電力モードも搭載しています。1週間程度経過してそろそろ危なくなってきたときに、省電力モードに切り替えれば、最後の最後にかなり粘ってくれると思います。1,000枚の電池寿命を達成した今となっては、あまり必要ない機能になってしまいましたが(笑)。

工場出荷状態では省電力モードがオフになっている

ただ目標を達成したのはいいのですが、最初に営業部隊にこのカメラを説明したところ信用しないんですね(笑)。1,000枚本当に撮れるのか、実使用するともっと少ないのではないかと。そこで本当であることを証明しようと、営業マンが北海道へ1週間ロケハンに行って試してみたのです。ウェブ上に特設ページを作成して紹介していますが、なんと1,316枚撮れました。お客様に実際使っていただいてもカタログスペックに遜色ない程度の枚数の撮影ができると思います」……つづきを読む