92年にボルティモア・オリオールズの本拠地Oriole Park at Camden Yardsがオープンして以来、これまでに18の新大リーグ球場が誕生しているが、そのうちの15球場を同じ設計事務所が手がけているのをご存じだろうか?
今日の大リーグ球場設計をほぼ独占しているのはPopulousという事務所で、今年話題のヤンキースの新Yankee StadiumやメッツのCiti Fieldも同社の設計だ。きっかけは大絶賛されたOriole Parkである。同球場は近年のレトロ型ボールパーク・ブームの火付け役になった。それまではコンクリートで塗り固めたような巨大なスタジアムを都市の郊外に建てるのが新球場の主流だったが、Oriole Parkは都市の中心近くにあり、街にとけ込むスタイルで、かつ古きよき野球場の雰囲気も備える。たとえばライト側の外野席にはボルティモアの特徴であるレンガ造りの倉庫が組み込まれている。93年のオールスターのホームラン競争では、ホームラン本数以上に、このビルに何本命中させるかが注目された。こうしたローカル文化や遊び心をバランスよく取り入れるところにPopulousの強みがある。
レトロ型と呼ばれると、古くて使いにくい球場をイメージするかもしれないが、レトロなのは雰囲気だけで、どの球場も中身はモダンだ。すべての席からフィールド全体が見渡せ、移動通路や売店には簡単にアクセスできる。試合直前・直後の混雑も、昔の球場に比べると大幅にスムーズだ。
こうした大リーグ球場の変化の背景には、映画やゲーム、ネットなど様々な娯楽との競争激化がある。かつてのようにボールゲームを見せるだけでは観客を集められない。ラスベガスがギャンブルの街から総合娯楽の街へと変わって再生したように、多くの大リーグ球団がいま家族で楽しめる娯楽体験の提供を追求している。ベースボール・テーマパークのような球場づくりも、その1つ。売店のメニューはかつてのようにピーナッツ、クラッカージャックにホットドックではなく、中華やメキシカン、弁当など多様になり、また地元の名物ファストフード店も並ぶ。裏側ではIT技術も新たな観戦体験の創出に重要な役割を果たしている。
今回はシリコンバレーの地元球団サンフランシスコ・ジャイアンツを例に、今日のエンターテインメント性を重視した新しい大リーグ球場を紹介しよう。同球団は自ら球場を所有し、集客とチーム強化のために最高情報責任者(CIO)を置く、ユニークな球団・球場運営で注目されている。