"ダブル余命"をテーマに据えた真の意図

――前作からずいぶんとテイストが変わったように思いますが、意識してスタイルを崩されたのでしょうか

「驚かせようという気持ちはありませんでしたね。親子の絆、夫婦の絆、恋人の絆を描きたかっただけなので、それならぶっ飛んだ演出もいらないし、自然に今回のようなスタイルにならざるを得なかった。

例えるなら、僕はいつも油絵で絵の具を分厚く塗りたくるようなパワー全開の映画ばかり撮るのですが、今回はパステル画で葉っぱの一枚一枚を綺麗に描いていくような作品なんです。でも、その"綺麗に描く"という作業にいらついて、たまにもう絵の具をぶちゃ! ってぶちまけてやろうかという衝動に耐えていました(笑)。演技指導の面でも、AKIRAみたいに新人で若い人はつい演技に力が入ってしまうので、そこはあまり力を入れず引き算で芝居するよう常に言っていましたね」

――監督の故郷やご実家を撮影に使われたと伺いました

「撮影はほとんど、自分の実家から半径何km単位の中で行いました。作品に出てくる高校は僕の母校だし、通学路とかすぐそばの神社とか、よく知っているところばかりです。映画のある重要なシーンを撮った場所は、僕の実家の台所なんですよ」

――ここまでお話を伺って、監督にとってもかなり思い入れのある作品であると感じましたが、主人公の史郎と父親の関係には監督自身の姿が投影されているのでしょうか

「半々ですね。史郎も父親も、どちらも半々。全部投影してしまうと自分が客観的に見られなくなってしまうし、見ている人がみんな『自分の家族もそうだな』って思える普遍性のあるものを撮りたかったので。例えば僕の父親は厳格だったのは映画と同じなんですけど、サッカーの鬼コーチじゃなくて英語の先生だったんです。あとは主人公は普通のサラリーマンだし、他のキャラクターもすべて虚構にしてあります」

「元気になったら、湖に連れて行ってくれ」という父の願いは叶えられるのか

――史郎は27歳ですが、この世代について監督はどのようにご覧になっているのでしょう。

「特殊なことは何も考えてないですよ。年々ダメになるとか、そういうオッサン風な意識もないです(笑)。映画では27歳の頃の自分と照らし合わせて撮影したので、もちろんインターネットを使っているだとかそういう事象的な変化はありますけど、それ以外では今も昔も若者について特に違いは感じないですね」

――最後にこれから映画をご覧になる方へのメッセージをお願いします。

「余命物の映画ってすごく多いんですけど、これはそういう作品ではなくて、人生について考える映画なんです。本作をなぜ"史郎と父親のダブル余命"にしたかというと、人生とは残された時間をいかに生きるかっていうのを考えることだと思うから。家族や恋人同士で見た後で、今まで恥ずかしがって語り合えなかったことを"ちゃんと伝え合うことができたなら、この映画にとってこれ以上の幸せはないですね」

恋人である陽子(伊藤歩)との絆も丁寧に描かれる

『ちゃんと伝える』は8月22日(土)よりシネカノン有楽町1丁目他全国ロードショー。

(C) 2009「ちゃんと伝える」製作委員会