気持ちのよい「人と犬との関係」には、「マナー」が重要

――さきほど、須崎さんとFIDO君の姿を見たら、とても美しいと感じました。横断歩道の赤信号を待っているときに、FIDO君がきちんと須崎さんの横に座るんですね。しつけが行き届いている感じで、とても気持ちよく感じました。

須崎氏「ありがとうございます。でも、本人達は『しつけている』という感覚ではないんです。前回も少しお話しましたが、一方的にしつけようとしても、犬はストレスを感じて、時には反発します。この子は元々人が大好きな子ですから、本当はすぐに人に挨拶にいってしまうんです。それは悪いことではありませんから、挨拶を受け入れてくれる人たちの中にいるときはどんどん挨拶に行かせます。でも、街中だとそういうことを好まれない方もたくさんいらっしゃいます。だから『とりあえず座っておこうよ』と、私とFIDOの間で約束してあるんです。もちろん、ときには興奮して立ち上がったり、人に興味を示してしまうこともある。そんなときは、『あれ?どうするんだっけ?』とFIDOの顔をのぞき込むんです。そうすると、気づいて座ってくれる。それでいいと思っています。コミュニケーションですから。犬だって、人間だって、ルールや規律だけでは、行儀よくはできません。」

――犬好きの方の中にいるときは、自由にさせてあげることもできますが、街中など犬が苦手な方がいる場所では、やはりしつけのようなものをしておかないと、迷惑をかけてしまうこともあるのではないですか?

須崎氏「実は、迷惑をかけているのは人間の方ということが多いんです。たとえば、犬が苦手な方というのは、ご自分から犬との距離をとっていきます。そこを飼い主が察することができるかどうかなんですね。最後はやはり飼い主の問題なんです。たとえば、散歩の途中で犬がうんちをした。それをすぐに飼い主が拾えるか。犬が他人に迷惑をかけるようなことをした。それを飼い主がすぐに謝れるか。そういった、"マナー"を守り、飼い主が回りに対し気を配ること。重要なのはそこなんですよ。自分が楽しいだけじゃつまらないじゃないですか。この楽しみを犬を好きではない人とも共有できないとつまらないですよ。あの人と犬の散歩は美しいね、素敵だねというだけでも、街の風景が美しくなるでしょう?」

■街で「犬と暮らす」ために大切なこと

  • ・周囲の人に気を配ること
  • ・迷惑をかけたと思ったら、きちんと謝れること
  • ――でも、横をきちんと歩いてもらうだけでも、かなり大変です。あちこちに興味を示し、最後にはこっちが引っ張られて散歩するようなことになってしまう。

    須崎氏「実は、犬にとっていちばん難しいのは街中の脚足歩行なんです。匂いを嗅がずに真っ直ぐ歩くというのは、犬本来の行動ではありませんから。犬は"におい"の世界に住んでいるので、いろいろなものに興味を示し、においを嗅ぎたくなる。それをまっすぐ、脇目もふらず歩くというのは大変なんです。犬の本来の行動や興味をよく知った上で、飼い主と犬が一緒にトレーニングしていかなければなりませんから。でも、このトレーニングはとても楽しいんですよ。」

    「力で従わせる」のではない、自然なコミュニケーションがカッコイイ

    --犬と暮らすにはたいへんな手間とエネルギーが必要ですね。

    須崎氏「そこが楽しいんですね。海外では、仕事に成功して余裕が出てくると、以前はスポーツカーなどを買うという人が多かったですが、今は犬と暮らす人が増えています。たとえば、ジャック・ラッセル・テリアのようなエネルギーの高い犬種を飼ったりする。このような犬と暮らすのは、簡単ではなく、知恵とエネルギーがものすごく必要になる。それを街中をなにげなく連れて歩いている。これがかっこいいんですね。」

    ――海外では、犬と暮らすことが一種のステータスになっていたりするんでしょうか。

    須崎氏「そうですね。といっても、高価な犬種、貴重な犬種を飼うのがステータスというわけではありません。たとえば、すごく身体の細い女性が大型犬を飼うとか。周りが見て、『ああ、力で飼うんじゃないんだね』と思う。こういうのがかっこいい。あるいはゴールデン・レトリーバーとチワワのような個性のまったく違う犬を一緒に飼っているとか。見る人が見れば、そこに膨大な時間とエネルギーを注ぎ込んでいることがわかる。こういうのが素敵なんですね。今、犬と暮らしたいと考えるのは女性の方が多いようなんですが、私はもっともっと男性の方に注目してほしいなと思っています。ジャック・ラッセル・テリアと街中を散歩している男性の姿はほんとうにかっこいいですから。」

    ( 撮影:中村浩二 )