「親から息子へ」ただ今世代交代真っ最中
ドメーヌ・アムラン / ティエリー・アムラン氏の場合
とにかくよくしゃべる陽気なオジサン(失礼! )と、「IT企業にでもお勤め? 」といった風貌の若者。2人がステンレスタンクの前であれやこれやと議論しているのは不思議な光景だが、実は立派な親子。父はティエリー、1840年からブドウを生産するワイナリーの7代目当主。一方息子はシャルル、1年前からワイン造りに参加し、半年間のニュージーランド研修から戻ったばかりの24歳。新進気鋭である。
体力的にもまだまだワイン造りを続けられそうな父ティエリーであるが、36haの畑とワイナリーは今年からシャルルに引き継がれ、ティエリーがDIYで建てたというワイナリーも数年後には新しく建て直すという。「料理は同じレシピでもつくる人が違うと味も変わってしまうことがよくあるけど、我々親子は驚くほど感性が似ているから大丈夫」とティエリーは早くも太鼓判を押した。
シャブリの協同生産者組合
ラ・シャブリジェンヌの場合
現在、組合員は350人を数え、年間250万ヘクトリットル、シャブリ全体の実に1/4を生産している巨大な協同生産者組合である。1923年、間もなくやってくる世界恐慌の前兆の時代、個人個人の農家では営みきれないと団結したのが設立の経緯。
ワインの評価は年々高まっており、プティ・シャブリからグラン・クリュまでシャブリ中に組合員の畑はある。しかし、ここの目玉はなんといってもグラン・クリュの1つ「グルヌイユ」である。7つあるグラン・クリュでは最も区画が小さい9.33haのうち、7.2haがシャブリジェンヌの所有なのだ。
しかもここだけは組合員ではなくシャブリジェンヌ所有で、この畑の前に専用の醸造施設を備えている。また、ヴァルミュール以外のすべてのグラン・クリュに組合員の畑があるので、6種類ものグラン・クリュが生産されているのもここだけ。その大きさゆえ統括するのも大変であるが、協同生産者組合だからこそ成しえる恩恵が、数々のグラン・クリュのボトルとなって表れていた。
名門ドメーヌ出身の夫と女性醸造家の先駆者との共同作業
ドメーヌ・ナタリー・エ・ジル・フェーヴル / ナタリー・フェーヴル氏、ジル・フェーヴル氏の場合
ワインを勉強している大学時代、ナタリーはシャブリきっての名門であるウィリアム・フェーブル社のオーナーをいとこに持つジルと出会う。当時一緒にワインを学ぶ学生は40人ほどで、そのうち女性はたったの5人。ナタリーは卒業後、ロワール地方のワイン分析施設に勤務したが、後に協同組合・シャブリジェンヌの分析機関を立ち上げ、ブドウ収穫から醸造までを任されるようになる。ワイン業界に女性の進出が盛んでなかった時代のことだから驚きだ。
シャブリジェンヌ創設者の1人が夫ジルの祖父であったことから、2人もシャブリジェンヌの組合員であったことは当然である。しかし前述の通り、大きな組織を統括するのは大変なことで、組合自体の理念と自分たちの方向性が必ずしも一致するわけではない。結果、「自分たちだけの仕事がしたい」という思いが募り、2004年に独立、シャブリワイン界のサラブレッドと女性醸造家のパイオニアという最強コンビのドメーヌが誕生したのである。
シャブリの中でも特徴的なドメーヌを紹介してきたが、その成り立ちや経営スタイルは様々であることがお分かりいただけたと思う。今回訪問した造り手も、それぞれのキャラクターや歴史がボトルに反映されていて、それがワイナリーの顔になっているのだとつくづく実感し、非常に興味深いものであった。