Googleが、選挙関連情報を分かり易く提供するプロジェクト「Google 未来を選ぼう 2009」を開始した。Google日本法人として初めての政治・選挙分野への取り組みの内容はいったいどんなものなのだろうか。今回のプロジェクトで使われる「Googleモデレーター」は、オバマ陣営が市民からの意見を聞くために選挙戦で、また選挙後のタウンミーティングでも活用しているツールだという。Googleが日本の政治への取り組みに乗り出した理由、現公職選挙法への見解などについて気になる点がいろいろある。説明会での質疑応答と個別に得たコメントから、まとめてみることにする。

オバマ大統領が積極活用する「Googleモデレーター」とは?

今回発表された「Google 未来を選ぼう 2009」は、"政治家をめざす人と日本で暮らす人々との対話を実現する"こと、"選挙関連の情報を分かり易く提供する"ことを目標に掲げたプロジェクトだ。プロジェクト第1弾では、有権者が衆議院選挙候補者へ質問を投稿し、候補予定者から動画で回答を受け付ける「未来のためのQ&A」サイトを、7月13日の午後2時にオープンした。第45回(2009年)衆議院議員選挙の公示後には、プロジェクト第2弾として、選挙区ごとの候補者や選挙関連の情報などを提供する予定だという。

未来のためのQ&A」では、"日本に暮らす人"から衆議院選挙候補者への質問を受け付けている

「Google モデレーター」は、もともとはGoogleが社内のプレゼンテーションで重要な質問を逃さないようにと開発され使われていたもので、評判がよく2009年8月に米Googleが一般向けにリリース(Google App Engineとして公開)した。「Google モデレーター」の利用には、Googleアカウントが必要となり、ログイン後に質問の募集や投稿、他のユーザーが投稿した質問への投票が可能となる。

質問の投稿や質問への投票などが行なえる

調べてみたところ、米大統領選の際には、オバマ陣営が「Change.gov」の公式サイトに「Google モデレーター」を利用した「Open for Questions」というオープンな質問を受け付けるサイトを2008年12月10日に公開しているが、その5日後の時点で、2万人以上の参加者から1万件以上の質問と100万件の投票を得ている。そして、投票順位の高い質問にオバマ氏が動画で回答し、引き続き質問を受け付けて積極活用した。さらには大統領就任後にも、オンライン上で市民集会を開催する際に使用している。

米国では、オバマ氏を含め、政治家や政党などが個別に活用してきた例はあるが、「Googleが会社として公式に『Google モデレーター』を使用した選挙プロジェクトを行うのは、日本が初めてとなる」(同社シニアマーケティングマネージャー馬場康次氏)という。米国での利用の形をそのまま推進するのではなく、ネット利用に馴染みにくい日本の政治家たちへの参加を促すきっかけをグーグルジャパンが提供したとも言えるだろう。

プロジェクト第1弾「未来のためのQ&A」

(1)ユーザーから衆院選立候補予定者に向けた質問と投票を受付け、(2)投票上位5つの質問を選定し発表を行い、(3)5つの質問に対して立候補予定者がビデオ回答を行いYouTubeへ投稿、(4)立候補者が確認できたものを公式チャンネル「日本の政党 JP Politics」と、公示直前に公開予定の「Google 未来を選ぼう 2009」で掲載する。

プロジェクト第2弾「第45回衆議院議員選挙情報サイト」公開

選挙区別の立候補者の基本データ、「未来のためのQ&A」での回答動画、Googleの検索機能を使った該当候補者の情報一覧などを予定している。

7政党全ての動画チャンネルが揃ったYouTubeの「日本の政党

プロジェクトの内容で気になるのは、公職選挙法の絡みの部分やビジネスモデルの部分だろう。同社シニアマーケティングマネージャー馬場康次氏は、次のように答えている。

――公示後に情報提供されるという候補者の情報はどこから得るのか?

馬場氏 立候補の確認は、日本インターネット新聞社が運営する選挙サイト「ザ・選挙~全国政治家データベース」の協力で行う。同サイトから、立候補者の基本データ(氏名、生年月日、選挙区など)を提供していただき、その他、Googleの検索機能を使ってWeb上の情報から該当立候補者の情報を閲覧可能にする予定です。

――公示後のサイトではGoogleの検索機能を中心に情報をまとめるというが、ブログなど個人の意見や見解や、伝聞情報などはどう扱うのか?

馬場氏 掲載方法やサイトデザインを含め、現段階でまだ動いているところではあるが、我々が提供するのはプラットフォームというスタンスなので、基本的にはWebにある情報を見易く掲載するという方向で考えている。

グーグル シニアマーケティングマネージャー 馬場康次氏

――現行の公職選挙法には、どのように配慮したか?

馬場氏 本プロジェクトの全容を事前に総務省の選挙課に説明したが、問題点についての指摘は受けていない。引き続き懸念点があれば確認を取りながら進めていく。最終的にはサイトの利用は,候補者の自己責任になるが、公示後の情報サイトの構築の際にも、最大限の配慮をしていく。

――ビジネスモデルは何か考えているのか?

馬場氏 現段階では、ビジネスという観点では考えていない。今回のプロジェクトに関しては、(関係する)YouTubeサイトも含め広告は一切入らない。

――献金の仕組みについてはどうか?

馬場氏 アイディアや人に賛同し、協力したいと思った時に、その場で献金できるのはいいと思う。今時点で可能性を語るのは早いが、収益を取るか否かは別の問題として、仕組みとしてはやってみたいとは思う。

――「未来のためのQ&A」での荒らしなどへの対策は?

馬場氏 モデレーターのチェック機能と合わせ、事務局側でも人の目を入れて見ていく。

――動画をアップしたくてもできない候補者が問い合わせをしてきたらどうするのか。専用窓口は?

馬場氏 Google側で、とくに動画投稿のお手伝いをするまでは行わず、また、質問についても専用窓口は設けていない。ストリートビューの時を例に出せば、途中から通常の問い合わせでは応じられなくなって専用サポート電話番号を設けた経緯がある。もし、ニーズがでるようであれば、時々に応じて考えていきたいし、そこまで反響があったら喜ばしいことだと思う。