PC市場の次をにらんだLinux陣営との対決

Starter EditionはMicrosoftにとって一種の試金石となる。低価格なマシンには制限付きの低価格なOS、それ以上を望むユーザーにはさらに高価なフル機能版という形で価格メニューを提示する。あくまで主力製品は安売りせず、ユーザーを可能な限り主力製品へと誘導するのが同社にとって最も好ましいシナリオだ。

ここでの問題は、Windows 7 Starter Editionが一般に受け入れられるかだ。Aero対応の有無はともかく、アプリケーションの起動数制限がユーザーの目にどう映るのか。結論からいえば、かなり厳しいといえる。Starter Editionの提供で途上国での海賊版対策がほとんど好転しなかったことから考えても、とても先進国ユーザーに受け入れられるものではない可能性が高い。MicrosoftがHome Premiumへのアップグレードを提供する理由はここにあるが、追加料金をわざわざ支払ってまで上位版の導入に踏み切るユーザーがどれだけいるのだろうか。ユーザーとしてはむしろ、継続提供が行われているWindows XPを選択するのではないか。

もう1つは勢力を盛り返しつつあるLinuxとの対抗だ。シェアでいえば現在は微々たる水準だが、ここにきてGoogleのAndroidを搭載したネットブック製品を複数のメーカーが準備しているという話が出つつある。携帯OSとして知られるAndroidだが、スクリーンサイズの大きいスマートフォンだと考えればネットブックでも十分に利用可能だ。従来までのネットブック向けLinuxはXandrosやUnbuntuなどが利用されるケースが多かったが、今後はAndroidやLiMoに加え、Intelが開発援助しているMoblinも加わり、さまざまなソリューションに対応できるようになる。年末までにはARMプロセッサとAndroidをベースにしたネットブックが登場するともいわれており、従来のPCとは異なるフォームファクタを構成することになる。

こうしたLinux陣営の強みは低価格よりもむしろ、意図的に機能制限を課そうとするWindowsに対し、制限なしの自由なプラットフォームを提供できる点にある。ここで同陣営がMicrosoft対抗において注意しなければならない点は、ネットブックをなるべくPCとして扱わないことだ。前述のようにネットブックにおけるWindowsのシェアが拡大した理由はセカンドPC需要を取り込んだ点であり、Linux陣営はむしろネットブックの原点に戻って低価格ながら外出先等で必要十分な機能を利用できる新規需要開拓を目指すべきだと考える。

一方のMicrosoftはこうした新規需要、特にローエンドの市場をLinux陣営に握られないように立ち回らなければならない。ネットブックそのものよりもむしろ、モバイル端末や多機能家電、PCの代替になるようなネット端末など、派生品の市場が潜在的な脅威となる。金融不況もあり今後PCの大きな伸びが期待できないなか、こうした市場はMicrosoftにとってチャンスと同時に、新たな競争の場でもある。

停滞しつつあるPC市場、そこに依存する同社が今後どのように収益を確保していくのか。まずは4月23日に発表される同社決算で、その影響がどの程度なのかを見極めておきたい。