--「うつ」の予防の際は「ストレスをためないこと」と言われますが、やむを得ずストレスがたまる環境にいる場合はどうすればいいのでしょうか?
三井先生「そうですね。まず大切なことは、その"行動"そのものに対して高いモチベーション(動機付け)を持つということではないでしょうか。つまり、これらの行動に意義を感じ、自分から進んでやりたいという内的動機付けが起これば、それはストレスではなく喜びと変わります。そういった『こころ』の持ち方が最も大切ではないかと思います。とはいっても、いくら意義を感じているからといって、身体を維持するための、適切な睡眠や食事、運動などが犠牲になれば、いずれストレスを感じるようになってしまいますよね。時には、自分の信念と反する仕事をしなければならなかったり、生活していくために働かなければならない時もあるでしょうし。要はバランスですよね。ストレスは長時間続くと、よりストレスを感じやすくなるばかりか、脳の海馬という記憶にとって重要な部分を変性させてしまうこともわかっているので、例えば、前もって仕事を片付けてたり、世の中にある様々なサービスを利用することによって、積極的にストレスから開放される時間を作る努力をすることも重要です」
--『心医術』では医学的の話の部分が多く書かれている印象を受けます。一般の人が"医学"を知ることの重要性は何でしょうか?
三井先生「客観性のある科学をベースにして考えることのメリットは、その訴求力の強さにあります。例えば、『こころ』という対象を考える場合、主観的だったり恣意的になってしまうことも多いと思われますが、科学というのは正しいか正しくないかを判断するための材料として参考になります。そして、"よい"とされる行動を理解してもらうためにできる限り科学的に理論を組み立てることが、『こころ』といわれてピンとこなかったり疑念を抱く人にとって大切ではないかと思っています。一度、このような内容(理論)を理解できると、良いことをおっしゃっている人の言葉に触れた時、すんなりと『聴ける』ようになります。そのため、本書では専門的な説明もわかりやすく説明し、できる限り多くの方に理解してもらうために努力したつもりです」
--『心医術』の中では「こころ」と「からだ」の関係の重要性が解かれていますね。最後に「うつ」にならないためのアドバイスをお願いします。
三井先生「様々な研究の結果や知見を総合して考えると、『こころ』と『からだ』のバランスが崩れた状態になると、病気が発生し、その病気を治療するために免疫系の一部などの特別なシステムが働き始めると言えます。何かはわからないけれども、体がだるいとかほてるとか嫌な気分がするというような状況のときは、『こころ』の無意識の領域が働き、バランスが崩れ始めた初期症状なんですね。したがって、このようなときには放っておかずに休憩をとってお茶をのんだり、アロマを炊いたりするとよいと思います。
あまり頻繁に起こるようであれば、仕事を早く切り上げて、十分に睡眠を取るよう心がけたり、運動をしたり、森林浴や温泉に出かけたり、趣味に時間を費やしたり、つまりわくわくするような行動をすることを心がけるのがよいと思いますよ」
プロフィール:三井康利先生
1997年北里大学医学部を卒業し内科医となる。現在、日本内科学会認定医、日本補完代替医療学会学識医、日本温泉気候物理医学会温泉療法医、日本旅行医学会認定医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医として医療の第一線で診療にあたっている。