ということで、ざっくりレポートをまとめたところで、もう少し突っ込んでみたいと思う。まずIntelの警告するx86のライセンス問題だが、同社やAMDはあまりこれを重要視してはいないようだ。今回も、発表会が終わった後で個別に質問に答える形で見解を披露していたが、概ねAMDがSECに対して行った申し立てに沿った内容で、要するに「ライセンス違反とは考えていない」との話だった。実のところ、AMDが製造工程を外部に出すのはこれが初めてではない。2006年からAMDはCharteredと提携してプロセッサの生産を外部に出しており、厳密に言えばこれも協議の対象になるべきに思えるからだ。クロスライセンスの契約の詳細は勿論非公開なので詳しい分析をしても余り意味はないのだが、これはIntelが仕掛けた条件闘争だろうと筆者は考えている。落としどころがどのあたりになるかはまだ不明確だが、解決には当分掛かるだろうし、GLOBALFOUNDRIESとしてもこれはこれとして、ビジネスを進めてゆくしかないだろう。
むしろ問題なのは、ファウンダリと呼ぶにはやや偏ったラインナップではないかと思う。発表後の質疑応答で、「現在はほぼ100%がAMDの売り上げだが、それ以外の顧客も開拓する事で、5年程度でAMDとその他の比率を50%:50%位にしたい」という見通しが語られた。ところが、GLOBALFOUNDRIESが持っている資産とは、45nm SOIと32nmのSOI/Bulk/Low Powerのプロセス、AMDから引き継いだHigh Speed Logic周りのIP、それと(HyperTransport Linkなど)若干のHigh Speed SignalingのIPと(Memory Controllerなど)若干のPeripheralのIPでしかない。これは、PCやServer向けのCPUを作るには十分であるが、そうしたニーズがあるのはAMDとIBM位のものであろう。同じ45nm SOIを使うFreescaleの場合、たとえばQorIQ P4080は単にCPUコアのみならず、GbEや10GbE、RapidI/O、etc...の様々な周辺回路が統合されているが、こうしたHigh SpeedのSerDesや、様々な周辺回路がGLOBALFOUNDRIESでは提供できない事になる。
勿論こうしたものも外部から購入することは出来るが、SynthesizableのIPでは特にSerDesなどでは無駄が多いし、性能も出にくい。こうしたものはやはりそのプロセスを提供するファウンダリがHard IPとして提供すべきものであるが、そうした準備は今のところ無いようだ。また、CPUコアそのものもGLOBALFOUNDRIESは保有していない。これがTSMCだと、ARMとかMIPSなど幅広いCPUコアが利用可能だし、(金額やサービスが折り合えば)TSMCだけを窓口にワンストップサービスを受けられる。同種のものはUMCやCharteredでも用意しているが、こうしたものはまだ用意されていないようだ。
もっと言えば、最近のASICは高性能ロジックというよりは、ロジック+周辺回路をワンチップ化という方向性が主流である。例えばスマートフォンなどでも、高機能のアプリケーションプロセッサを単体で使うというよりは、アプリケーションプロセッサとベースバンドプロセッサとDSPが一体化とか、更にFlashだのRF/Mixed SignalだのまでMCM化してワンチップとしたような製品が求められる方向にある。こうした中で、High Speed Logic一本やりというGLOBALFOUNDRIESの方向性のニーズがどこまであるのか、が筆者の最大の疑問である。景気が回復するまでに、High Speed Logic以外のIPをどこまで揃えられるか、がこの先のGLOBALFOUNDRIESの行く末を決める事になるように思える。
AMDについても、これによりCTIとかSTTなどが非常に難しくなった。CTI/STTもこちらを見ていただくのが早いが、要するに90nmにせよ、65nmにせよ、こまかく改良を重ねてゆく事で性能を改善する手法だ(STIに関しては、トランジスタの構造がこの先大きく変わる事を考えると、どこまで有効かは謎だが)。例えば65nm SOIにしても、Phenomの最初のロットの発熱は異常だったが、45nm SOIのPhenom IIが出る前にプロセスの改良が行われて若干消費電力が減ったりした。こうした「新プロセスの最初は駄目でも、後になると改善される」というのがここ10年位のAMDのプロセスの特徴だったが、会社が分かれてしまう事でこうした技が使いにくくなる事が予想される。もっともKupec氏によれば「AMDの製品でまずプロセスの開発を先行して行い、そこでMatureになった段階で他の製品にもそのプロセスを使う事で、初期から高いYieldが確保できる」だそうだが、問題はMatureになるまでの期間が予想より長い(90nm SOIなんかはその良い例に思える)場合にどうするか、であろう。
Intelの問題は別にして、まだまだ先行きが難しそうなGLOBALFOUNDRIESである。一つのマイルストーンは32nmがAvailableになる今年末~来年であるが、その時期にどんな製品として出てくるか、ちょっと興味深く見守ってゆきたい。