陸上自衛隊東部方面隊、NTT東日本、NTTドコモは12日、災害時の円滑な相互協力体制を維持強化する目的で、陸上自衛隊朝霞駐屯地にて首都直下地震を想定した共同実動訓練を実施した。
共同実動訓練の目的とは?
訓練開始に先立って、報道関係者に向けて訓練の概要が説明された。共同実動訓練は、2004年10月に発生した新潟県中越地震における陸上自衛隊とNTT東日本の相互協力を契機に、2006年から東部方面隊とNTT東日本の2者によって始められた。翌年の2回目の訓練からはNTTドコモも参加し、今回で4回を数える。
陸上自衛隊では、実際の災害発生時において、通信班が先行して被災地へと向かい、音声通信回線の確保を行う。本格的に活動を始める際には、情報共有や部隊の指揮・連絡を円滑に行うために高速データ回線を必要とする。しかし、新潟中越地震とそれに続いて発生した中越沖地震を通して、現在の陸上自衛隊の通信装備では要求される通信を確保することが難しい上、東部方面隊が管轄する新潟県や長野県の豪雪地帯においては冬季の通信中継所を自力で設置することが困難であると認識した。
一方、NTT東日本では、中越・中越沖地震において陸路が遮断された地域に災害復旧機材等を、民間ヘリコプターをチャーターして自力で運搬することを試みたものの、着陸規制などによって不可能となり、東部方面隊に運搬を依頼することとなった。
このような経緯から、東部方面隊とNTTグループでは災害発生時の相互協力協定を結び(2007年2月にNTT東日本、同年3月にNTT西日本、2008年3月)、原則として年度に1回の共同実動訓練を行うようになったのだ。
今回の実動訓練は、昨年度と同様に避難地への通信機材の持ち運び、VoIPによる特設公衆電話の設置などに加え、大型輸送ヘリコプターを使った通信ケーブルのつり下げ・搬送訓練が行われた。また、海上自衛隊の協力により、海上自衛隊横須賀基地において、離島災害を想定した災害対策機材の輸送艇による運搬訓練も同時に行われ、その模様は、本会場にもFOMAを使って中継されていた。
災害時に通信を確保する機材
報道関係者への説明後、訓練開始式がとりおこなわれた。陸上自衛隊からは、笹木明仁通信群長が、NTT東日本からは中島康弘災害対策室長が挨拶に立った。佐々木群長は、「より現実的な起こりうる場面を捉えての訓練になると思われる。この訓練を通じて、実際に我々が被災時に直面するであろう状況を現実的に捉え、その復旧活動で何がまだ課題として残っているのか、解決すべき方法論はなんなのかを模索しつつ訓練に望みたい」と述べた。また、中島室長は、「(海上自衛隊の協力も得て)昨年にも増して充実した訓練と言えると思う。実際の災害発生時に訓練の成果が正しく発揮されるものと期待している。前回よりは今回、今回より次回と、充実した訓練をすることによって、これからの自衛隊との協力関係をますます維持・発展させていきたい」と述べた。
開始式後、実際に災害時に運用される通信機材の説明がおこわなれた。NTTドコモからは、大規模なイベント時にも見かけることが多い移動基地局車が駆けつけた。今回の用意された基地局車は、通信ケーブルを利用するタイプと、通信衛星を使って通信するタイプの2種類。特に、通信設備が壊滅的な打撃を受けた場合に、通信衛星を使う移動基地局車は活躍するだろう。
NTT東日本からは、移動電源車が2台用意された。今回やってきたのは、NTTグループ全体でも2台しかない2000kVA(一般家庭の300~400軒分の電力)の発電能力を有している一番強力なタイプ。ガスタービン駆動式の発電装置と200リットルの軽油タンクを内蔵しているが、この電源車の軽油が満タンであっても最大出力の状態では、およそ18分しか発電できない。そのため、実際は、電話局に備え付けられている軽油タンクから常時給油しつつ発電を行うという。このほかにも、NTTグループではいろいろなタイプの移動電源車を用意して災害に備えているとのことだ。
NTTグループ全体でも2台しかない2000kVAの発電能力を持つガスタービン移動電源車(1台1億7000万円)。会場には、その2台が集結。そのうちの1台を実際に稼働するデモが行われた。ガスタービン駆動らしく、ジェット飛行機並みの騒音が周囲に響いた |
今回は、NTTコミュニケーションズのIP通信が可能な機動型衛星通信システム「Com-SAT」も展示されていた。最も大きなパラボラを持つ地上局でも、最低2人いれば設営でき、最短で30分ほどで通信可能な状態にできるという。通信困難な地域での配備が期待されている。