Chipidea買収の意味
CPUコア開発の重心を32ビットに移す一方で、MIPS TechnologiesはCPUコア以外の半導体コア(IPコア)を手掛けることにした。その転換点となったのが、2007年8月のChipidea買収である。Chipideaはこのとき急成長中で、5年間で顧客数を20社から150社に急増させ、世界の大手半導体ベンダ15社中13社を顧客とするなど、相当な勢いにあった。
Chipideaが成長した背景には、IPコア調達の動きがCPUコア以外の回路ブロックにも広がっていることがあった。例えばデジタル家電やモバイル機器などは複数の外部インタフェースを搭載することが標準的になり、しかもその搭載数は増加していった。ところがこの動きに、システムLSIベンダの開発リソースの増強が追い付かない。エンジニアを新たに雇用したり、新たに育成するためには、半年なり、1年なりの一定の期間を必要とする。これに対して市場における競争は、エンジニアの増員を待ってくれるわけではない。しかも未経験の回路開発には、動作が保証されないというリスクが付きまとう。
自社開発から外部調達へ。この流れはCPUコアだけにとどまらない。「厳しい競争に曝されている顧客(システムLSIベンダ)にとって、動作が保証されたIPコアを購入することはリスク(回路開発の失敗)を避ける意味もある。10~15年前であれば、自社開発の余裕があった。しかし開発期間短縮と開発コスト削減の強い圧力が状況を変えた。こうしたベンダは他社製品と差異化できる部分だけに開発リソースを集中させたいのが本音だ」(シーザー・マーティン-ペレッツ氏)。
MIPS TechnologiesはChipideaの買収により、市場調査会社による2007年のIPベンダ売上高ランキングでは、ARMに次ぐ2位に躍り出た。また2008年会計年度(2007年7月~2008年6月)における売上高を前年度比26%増と大きく伸ばすなど、結果的にMIPSのIPコア事業は量的に大きく拡大した。
そして質的にも大きく変化した。まず種類の豊富さである。旧Chipideaを引き継いだ現在のMIPS Technologies ABGの提供する半導体コア(IPコア)は400種類を超える。しかも必要性の高そうなIPコアが用意されている。その例を下記に示す。
- HDMIのコントローラと物理層
- USBのコントローラと物理層
- MIPI(Mobile Industry Processor Interface)のコントローラと物理層
- LVDS(Low voltage Differential Signalin)のシリアライザとデシリアライザ
これらのIPコアはアナログではなく、高速データインタフェースや高速インタフェースなどに分類すべきだろう。もっと重要なことはシステムLSIが標準的に必要としそうな回路ブロックや、最近になって登場したために設計のエキスパートが少なそうな回路ブロックが用意されていることだ。例えばHDMIは薄型テレビやデスクトップPCモニタなどでは標準的なインタフェースである。しかし回路設計は簡単ではない。半導体ベンダが自社開発よりも外部調達を選択しそうなIPコアの典型的な例といえる。