今季の傾向
今季のSIHHは、カルティエにジャガー・ルクルト、ダンヒル、モンブラン、ボーム & メルシエ、さらに、高級腕時計を発表したラルフ ローレンが新たに加わり、計17ブランドがブースを構えた。「宝石商の王であるがゆえに、王の宝石商」という異名を誇るカルティエ。そのカルティエが貴石をちりばめたジュエリーウォッチと並べ、時計のマニュファクチュールとしての威信をかけた伝統の継承と革新性に富むトゥールビヨン(重力補正装置付きウォッチ)等のコンプリケーション(複雑時計)を揃えていたのは、今季の特色といえるかもしれない。
また、特に「伝統の継承と革新」が今季のSIHHのトーンではないかと思わせたのが、ジャガー・ルクルトの「マスター・ミニッツリピーター・ヴィーナス」。同時計は、精緻な歯車の輪列がゼンマイによる動力を伝達し駆動する機械式ムーブメントで、「時」をチャイムで知らせるという驚愕技術のミニッツリピーター機能付き。ダイヤルには愛と美の象徴である4パターンの女神の絵画が、古典的なエナメル技法で描かれている。
古来、王侯貴族らが愛したという伝統技法のエナメル細密画は、毛髪よりも細い筆先によるドットで描かれ、1色ごとに焼成を繰り返し、気の遠くなるような時間をかけて完成させる。技術継承者は世界で3人しかいないとされ、そのうちの一人がジャガー・ルクルトの先任者。ジャガー・ルクルトのブースでは、その先任者がエナメル細密画を実演し、来訪者の目を釘付けにしていた。
ジャガー・ルクルトのコンプリケーション新作では他に、古き良き時代のデザインを再現したような「マスター・グランド・トラディション」シリーズの「トゥールビヨン・パーペチュアル・カレンダー」、「ミニッツリピーター」が見られた。両面にダイヤルを有し、反転させることができるスクエアケース「レベルソ」からは、シリーズ初のビッグデイト表示モデルがお披露目された。
また、ドイツの時計の聖地、グラスヒュッテの超絶技術を現代に伝えるランゲ & ゾーネは、6時の位置にスモールセコンドを配した3針モデル「1815」に、パワーリザーブ55時間を実現する新しいムーブメントを搭載。また、シックで気品あるダイヤルデザインは継承されつつも、ケースサイズは現代的に40mmと、従来よりも4mm大きくなった。
一方、IWCは、ヴィンテージコレクションとして、12時の位置に月の位相を表示するムーンフェイズ機能を備える「ポートフィノ」等を発表。アンティークを思わせるダイヤルデザインや、先端に円形の飾りのある古典的なブレゲ針、丸みを帯びたケースがクラシカルだった。技術の継承と革新性という点では、コンプリケーション「ダ・ヴィンチ」、機械式水深計を搭載した「アクアタイマー・ディープ・トゥ」等に時計メーカーとしての誇りがあらわれていた。さらには、ダーウィン生誕200周年にちなんで、売上の一部がチャールズ・ダーウィン財団に寄付される「アクアタイマー・クロノグラフ GALAPAGOS ISLANDS」を発表。寄付金は、ダーウィンが進化論の着想を得たとされるガラパゴス諸島の環境を保全するために使われるのだそうだ。
一方、独立系ブランドは
こうしたリシュモングループ傘下の時計ブランドが一堂に会して新作を披露するSIHH開催中のジュネーブでは、レマン湖畔にある格式あるホテルやオフィスなどで、ドゥラクール、HD3、ファーブル・ルーバ、アントワーヌ・プレジウソ、ジャン・メレ & ギルマンといった独立系時計ブランドによる独自の新作発表会が催されていた。フランク・ミュラー、ピエール・クンツも、ジュネーブ郊外にある古城を買収したという本社ファクトリー「ウォッチランド」で、独自の新作発表会「WPHH(World Presentation of Haute Horlogerie)」を開催。メルセデス・ベンツSクラス等の送迎車を用意し、SIHH会場とウォッチランドをつないでいた。
Photo / Franck Dieleman (C) Cartier 2008