映画館で観るということ
――ネットで動画作品を公開している人も多いですが。
北條「映画館は上映される時間が決まっているから、その時間を目指して足を運ばなくてはならないという行為がありますよね。そこでは、自分と同じ目的を持った人と一緒に、その時間を共有する覚悟が必要です。それが、その作品を"選んで観る"心構えだと思うんです。パソコンはすごくパーソナルな時間だと思うんですけど、映画館は人と、あるいは作家と時間を共有する。そこが一番違うのではないかと思います。終わって散って、それぞれ心の中で体験を再生産していく、だから映画が文化になるのだと思うんです。」
山岡「まだ公開前ですが、たまたまチラシを見た昔の仕事の同僚から連絡があったり、全く知らない人からメールが来たり、そういう見知らぬ人との接点が作品をを媒介にして広がっていくんだということが感じられて、すごく不思議。ささやかですけどそういうことが起こっていることで、映画を公開することを進めてきてよかったなと素直に思えます。」
山岡「DVDやネットで公開しても同じようなことは起きるのかもしれませんけど、映画館で公開してそういうことが起こっているのって、ちょっと違う気がするんですよ。」
北條「例えばね、ネットで公開して1年で5万のアクセスがあったというのと、劇場で5万人が足を運んだというのでは……」
山岡「あぁ、違いますね! 作る立場からすると、見せることがすごく怖くて、スタッフ試写でも気持ち悪くて吐きそうな気分なのに、わざわざ不特定多数の人に見せるというのは正直言って怖いですけど、チラシの反応ですら"やってよかった"と思える方が勝っちゃう。伝えることの努力を手を抜かずにやっていけば、届く人には届くんだなと。体温を感じられる繋がり、というか」
ここでしか体験できない、「来て良かった」という気持ちを
――実際に持ち込まれたときに『ロストガール』を覧になっていかがでしたか。
北條「スケールで言うと、気持ち小さいかなというのは多少ありましたけど、反対にそれが面白いかなという感じがしました。ハッタリがない大きさというか、等身大というか。小さいなと思うのと、ハッタリがないなというのが同時に湧いてきました。それはある種、インディペンデントの映画の"正しい"立ち位置だと思いますけどね。」
主人公は完全に関係の壊れてしまった涼子(渡辺真起子)と大地(山本浩司)の夫婦。渡辺のファンだった山岡監督の「ダメ元の交渉で」出演が決定したという。「真紀子さんが決まって、そのあと山本さんが決まったので、真紀子さんが決まっていなかったらその後のキャスティングも難航したかもしれません」(山岡監督) |
――正しい立ち位置、ですか
北條「けっこう"インディペンデントじゃないだろう"というインディペンデントもありますよ(笑)」
山岡「それは良い意味でも悪い意味でも?」
北條「うーん、そうね。良い意味でも悪い意味でもね。」
――上映の決め手となったのは、やはりその素直な感じがあったところですか?
北條「そうですね。あとは、シンプルさ。」
――最近選ばれている上映作品とは近い雰囲気があるのでしょうか?
北條「これは無いですね。それが新鮮なんです。慣れてきたインディペンデントは、不思議とだんだん似てくる現象があるんです。時代の空気感と言っちゃうんですけど。メジャーな映画でもキャスティングやスケール感が似てくる傾向があるので、やっぱり(映画は)時代を映すんですね。」
――お勧めしたいポイント、みどころは?
山岡「短い、とか(笑)」
北條「多分、テレビとかマンガ、シネコン、あるいはネットで見られる物語ではないものを見に来ませんか、それは愛の物語です、というところではないでしょうか。ここでしか見られない、体験できないというものがあると思うんですよ。」
山岡「トークショーなどのイベントも考えています。映画自体はハッピーな気分になるわけじゃないかもしれないですけど、それも含めて少なくとも"来て良かったな"という気持ちだけは持って帰ってもらおうと。」
――公開が2月14日なんですね。
北條「偶然ですよ(笑)。でも、作品が呼び込んだかもしれませんね。」
山岡「公開が決まるまでは脚本を書くなど次の作品の準備をしていたんですが、決まってからは宣伝をやるのも自分の会社なので、そんな余裕もない(笑)。でも、やっぱりたくさんの人に来て欲しい。それを考えるのはツラくはないです。」
北條「山岡さんの撮る次の作品はハッピー狙いになるんじゃないですか?」
山岡「そうですかねぇ…」
北條「だいたい前の作品と作風変えるっていいますよ。でも残るんですって、クセみたいないものが。」
山岡「早く自分で観てみたいです(笑)」
――ちなみに、お二人の2008年のベスト5作品は
北條「5本? そんなに無い!」
――ではベスト3は?
山岡「僕は『ダークナイト』『ぐるりのこと』『スカイ・クロラ』…あと『トウキョウソナタ』とか」
北條「けっこう優等生ですね(笑)」
山岡「素直に心を動かされた作品で。あと今度『愛のむきだし』(※)が…」
北條「4時間だよ4時間」
山岡「間に休憩入って、『七人の侍』みたいな」
北條「お弁当つきます、とかね(笑)」
※現在、ユーロスペースで上映中。園子温監督(『自殺サークル』『紀子の食卓』)による純粋かつ壮絶な"純愛"エンタテインメント。上映時間237分。
『ロストガール』は2月14日よりユーロスペースにてロードショー。作品レビューはこちら→これが30代のリアル、ほろ苦バレンタインに愛を見つめ直す『ロストガール』
撮影:石井健