――今日はiPhoneアプリ「産経新聞」について伺いたいと思います。どんなところから反響がありましたか。

近藤氏 一番は、実際に使われている方からの声で、「App Store」のレビューやブログなどもよく見て参考にしています。いい評価も悪い評価もありますが、思った以上におもしろがっていただいているようです。「★」(App Storeでの評価単位)を多くつけてくれる人が予想以上いました。こういうふうに(ユーザーの)声を聞くことが最大の目的でしたので、ありがたいですね。

――社内からの反響はどうですか。無料で提供することに批判的な意見などは?

近藤氏 おおむね肯定的と思います。実際のところ、過去15年にわたって紙面をPCなどでお届けする、いわゆる「電子新聞」をやってきたんです。でも、結論から申し上げますと、ほとんど成功はしていません。今まで何度もやめなきゃならないという局面はありました。ただ、今でも赤字なんですけど、社長を含めて産経新聞社内には「紙面をデジタルで見せる」ということも含めて、(デジタル事業に)可能性を持っている人はけっこうたくさんいて、「まだいろんなことをやり尽くしていないだろう」「こういう形(電子新聞)はダメなんだよ、とちゃんと確認できるまではあきらめるな」という声があるんです。

――こんどはiPhoneに賭けてみることに?

近藤氏 そこにiPhoneというすばらしいインタフェースが現れた。すでにPC向けに「NetView」という有料電子新聞サービスをやってきて、そのインフラを使えば大きな追加コストをかけずにiPhone向けのサービスを提供できるな、と。もちろんそこには、まさに"失敗の歴史"があるのですが。

――これまでの取り組みについて教えてください。

近藤氏 1993年に専用端末を開発して、テレビの放送波の隙間を使って電子配達をしたことがあります。テレビのアンテナ線に端末をつないで、毎朝、電波に乗って端末に朝刊が配達されるというサービスです。産経新聞しか見られない端末で、電池ももたなかったので、1年くらいで中断しましたね。

「NetView」では、Webブラウザ上で新聞レイアウトのまま記事を読める

ただ、新聞を新しいデバイスに載せて、新しい手段で届けたいという意欲は当時からあったんです。2001年10月から2005年3月にかけて「NewsVue」というサービスを提供しました。紙面レイアウトのまま見られるサービスです。当時は専用ビューアをダウンロードしてもらっていたのですが、知名度の低いソフトは入れたくないんですかね、月額1,900円の利用料もかかりましたし、あまり使われなかった。そこでWebブラウザで見られるFlashベースのサービスに切り替えました。

2005年10月には月額300円の「NetView」(現在も提供中)を始めたわけです。紙(新聞)の購読代の1/10でやれば使ってくれるかもしれない、と。しかし、成功とはほど遠い。(デジタルの強みを活かして紙面上の)動画とか写真が変わる仕組みを作ったし、人手も増やしたけど、あまりユーザーも増えなくて、何度か事業を閉鎖する議論が出ていました。

「Palm」というPDAがあったじゃないですか? 「CLIE」(ソニー)とか「Work Pad」(IBM)に向けたサービスもやったんですよ。ほとんど知られてませんけどね。「Mobile 産経 PDA BOOK版」というサービスで、テキストベースでタテ書きで見せるやつです。月額2,100円で、つい最近の2007年3月31日まで続いていました。

産経新聞には、(電子新聞事業で)いくつかの取り組みをやってきて、うまくいかなかった歴史があるんです。