復讐依頼先から「違約金」の請求

休憩を挟んで開始された第2部のセッションは、熊本県の南小国中学校教頭の桑崎剛氏をコーディネーターに、山形大学学術情報基盤センター 准教授の加納寛子氏、東京都立江東商業高校教諭の榎本竜二氏、モバイル社会研究所 主任研究員の遊橋裕泰氏、茨城県メディア教育指導員の鈴木慶子氏、漫画家の倉田真由美氏が参加した。

東京都立江東商業高校の榎本氏が、学校現場におけるケータイ・ネット利用の現状と問題点を報告。

子どもたちの現状として、「バトン」「リアルタイム・ブログサイト」「コミュニティサイト」「リアルマネートレード」「復讐サイト」「モデル募集サイト」などの利用が危険と指摘。それぞれについて説明した。

新手のチェーンメールともいえる「バトン」の存在が指摘された

このうち、「バトン」は、自分で質問を作り、自ら回答し、複数人に回すようにうながしたメール。チェーンメールと似ているが、最初に自分で質問と回答を自作自演している点が特徴で、最終的には見ず知らずの人に回っていってしまう。

「リアルタイム・ブログサイト」は通称「リアル」。自分の行動をリアルタイムに書き込むためのサイトで、他の人が今何をしているかがすぐに分かる。メールをして返事がないとして子ども達が嫌がる"ムダ打ち"が防げるとして人気があるという。

「コミュニティサイト」について榎本氏は「自分の知り合い以外の他人には見られないと真剣に思っている」とその問題点を指摘。「リアルマネートレード」については、「時間のない大人に代わってゲームをやってアイテムを獲得、大人に売ることができる。子ども達にとっては格好の小遣い稼ぎで、このために時間を浪費している子どもも多い」と話した。

「復讐サイト」に関しては、「いじめなどの復讐を請け負うとする請負側の大半は詐欺。一旦復讐を頼んでしまうと、取り消すときに『違約金』を請求されてしまう。依頼するときに住所などを書き込んでしまうため、問題となったケースもある」と説明。

「モデル募集サイト」は、「誰でも簡単」と勧誘。「登録料、会費、レッスン料、カメラテスト、予備撮影などと次々と口実を設けてお金を取る。さらにそれだけではなく、写真や個人情報を出会い系サイトに流されることも多い」とその危険性を指摘した。

ケータイ流行の裏には「子ども専用PC」の普及の遅れ

山形大学の加納氏は、会場の聴講者に向けて質問をしながら、子どものケータイ利用の問題点について説明した。

まず、「日本でケータイが欧米に比べて子どもの間で流行しているのはなぜ?」と質問。その答えとして、「欧米や韓国に比べ、子ども専用のPCが普及していないことにある」と回答。「日本のPC普及は進んでいると勘違いされているが、実はますます遅れをとっているのが現状」と説明した。

山形大学の加納氏は「学校へのケータイ持ち込み禁止は、問題を学校の外に追いやるだけ」と主張した

さらに、「ケータイを持っていない子どもは、経済的に恵まれている子どもが多い」と独自の調査結果を公表し、「その理由は?」と質問。

答えとして、以下の3つのケースのいずれかががほとんど当てはまると話した。

  1. おとなしいタイプで、ケータイメールをやり取りするような友達がいなかった

  2. 活発なタイプで、周りの誰かが持っているから、どうしても必要なときは借りれば十分

  3. 学校から帰ればいつもPCに向かっていたから、友達からもPCのメールに送ってもらっていた。サイト閲覧も、ケータイのような小さな画面より、PCのほうが見やすい。小さな画面ばかり見ていると、視力低下が心配

世間での一般的な認識とは異なるこれらの事実を述べた上で加納氏は、「学校へのケータイ持ち込み禁止は、問題を学校の外に追いやるだけ。必要な理由を明確化させ、学校・保護者・子どもで連携し、教育する必要がある」と訴えた。

「女子のほうがダメージ受けやすい」と指摘

漫画家の倉田氏は「ケータイやネットの問題に関しては、男子と女子をそれぞれ別個に指導すべき」と訴えた

「だめんず・うぉ~か~」などの人気作がある漫画家の倉田氏は、「ケータイの問題が語られるとき、男子も女子も一緒にして議論しているのは無理がある。最近はデジカメや写メールの普及で写真へのハードルが低くなっているが、フィルムカメラの時代は写真は特別なものだった。一旦写真がネットに出回ればどうなるか、女子のほうがはるかにダメージは大きい。ケータイやネットの問題に関しては、男子と女子をそれぞれ別個に指導すべきではないか」と問題提起した。

コーディネーターを務めた南小国中学校の桑崎氏は、「これまでの議論を見てくると、やはり親の果たすべき役割が大きい。警察庁では、ケータイ利用の家庭でのルール作りの中で『家でのケータイ・ネット利用をリビングルームで』と推奨しているが実は米連邦捜査局(FBI)も全く同じことを推奨している。子どものケータイ利用については、親がしっかり見守ることが大切」と強調して議論を締めくくった。