ここに今回の個展に出品されている作品『Woman Ironing(アイロンをかける女)』の一部分を拡大した写真がある。これをよく見ていただきたい。女性の肩の後ろの緑っぽい部分はペットボトル、髪はタイヤやロープのようなもので描かれている。ムニーズは最新作である本シリーズ『Pictures of Garbage(ピクチャー・オブ・ガベージ)』に使用する素材に"ゴミ"を選び、描き出しているのだ。同シリーズはギリシア神話などに出てくる神々のポーズをモチーフにして、ゴミ処理場で働く人々のポートレートを、大量の生活ゴミを使って描いたものだ。本展では「Woman Ironing」の他に、『Atlas(アトラス)』、『Mother & Child(母と子)』、など7点の新作を初公開している。
≪Atlas≫Pictures of Garbage 2008年、デジタルCプリント |
≪The Bearer≫/≪The Sower≫Pictures of Garbage 2008年、デジタルCプリント |
≪Woman Ironing≫Pictures of Garbage 2008年、デジタルCプリント |
本展はTWSが「アートと環境との対話」をテーマに昨年より取り組み始めたプロジェクトの一環として開催されている。ゴミ問題というのは東京やニューヨークに限らず、都市化に伴う深刻な問題だ。ムニーズが生まれたブラジルの大都市、サンパウロやリオ・デ・ジャネイロも都市化の影響で、ゴミ処理が社会問題となっている。また、ゴミ問題のもうひとつの側面として、ゴミが貧困層の生活を支えるものとなっており、格差社会の問題にもなっている。こうした都市化の弊害としてのゴミ問題をアートに反映した例は、森美術館で開催されている「チャロー! インディア展」においても複数みられるように、アートと環境の関係性は世界的な潮流とも言える。
ムニーズもまた、大量消費社会が生み出した社会の歪みに着目するアーティストのひとりだが、Pictures of Garbageシリーズは取り組み方や制作の手法、規模が他とは異なる。ムニーズはリオ・デ・ジャネイロ市にあるブラジル最大規模のゴミ処理場「Jardim Gramacho(ジャウジン・グラマーショ)」において、本シリーズを制作した。そこはバスケットコート2面分の広さがあり、ムニーズは処理場で清掃や廃棄物処理といったリサイクル労働に従事する人々の協力を得て、各作品を描いた。こうして一枚の写真に収まってしまうと、そのスケールがわかりにくいが、ムニーズはコートにたくさんのゴミを並べ、全体を見通せる高い場所にカメラを設置し、撮影を行なうという手法で制作している。これらの作品の売り上げは、ACAMJGという団体を通じて、ジャウジン・グラマーショのリサイクル労働者やその家族、5,000人もの人々の生活と未来のために使われるという。
Pictures of Earthwork 2005~2006年、銀塩写真 |
M@≪Boy with a Pipe, after Picasso≫Pictures of Pigment 2008年、デジタルCプリント |
本展では、バスケットコートをキャンバスにしたPictures of Garbage以上にスケールの大きな作品も紹介されている。空に飛行機で雲を描いた『Pictures of Cloud』、ブルドーザーなどの重機を使って大地にさまざまな単純な図を描いた、まるで現代版のナスカの地上絵のような『Pictures of Earthwork』の2つのシリーズも加え、"ビューティフル・アース=美しい地球"とはどのようなもので、どのようにあるべきかを、アートの力を持って人々に問いかけている。この他、「泣く女」や「パイプを持つ少年」などのピカソの名作を色土を使って描いた『Pictures of Pigment』など、ほとんどが日本初公開となる作品の数々が展示されている。