社内横断的な情報交換

コンクールではワインのことだけが聞かれるわけではない。日本酒についてやリキュールについて、さらには料理についても質問される。例えば今回は、醤油についての質問があったという。

ホテルニューオータニでは、バーテンダーや料理人、ソムリエなどがお互いに声を掛けやすい環境があるようだ。それぞれの分野で積極的にコンクールに挑戦しており、自然と情報交換しているという。そういった環境も、今回の結果に結びついてるのだろうか。

「バーテンダーがつくるノンアルコールカクテルを横で見て、勉強させてもらったことがあります。更衣室で料理人から声を掛けられて、ソースに使うお酒について尋ねられたこともありました。でも、それが特別なことだと思ったことはありません」

さて、森さんは普段どのような1日を過ごしているのだろうか。円グラフをつくってもらった。これによると、1日の半分近くをホテルで過ごしていることになる。

「コンクールの勉強にしても、家でやるより店の方がよいですね。制服を着ていれば実技試験の時と同じスタイルで、自然とポケットからソムリエナイフを取り出す仕草が身に付きます。だから自分から志願して泊まり込んだりもしました。マグナムボトルでグラス15杯に注ぎ分ける練習もしましたね」

コンクールのブラインド・テイスティングでは産地を当てて、ワインの特徴をコメントしていく。その為にはただ数をこなすのではなく、テイスティングしながらカテゴライズしていくことが大切だという。

――テイスティングはどのように記録しているのですか。

「自分が思い浮かんだコメントと、他の人が言ったコメントをそれぞれ書いています。その2つが食い違った場合、ワインのデータを参考にしながら議論し、舌だけではなく頭でもワインを理解していきます」

同じレストランに5人のソムリエがいることから、1本のワインが5人それぞれの視線で語られる。これは非常に貴重な経験であろう。

森さんが勤務する「トゥールダルジャン」は、鴨料理が名物の高級フランス料理レストランだ。記念日の利用でちょっと特別な演出をしたいというお客様がいたら、可能な限り対応するとのこと。料理や飲み物については、森さんに相談しながらメニューを決める贅沢も許されている。

ワインセラーには約800種類、3万5,000本のワインが眠っている。シャンパンだけでも140種類近くある

世界大会は2010年。森さんは「すぐですね」と笑った。プライベートでは今年、結婚式を挙げる予定だという。これからの約1年半が森さんにとってどのような経験になるのか。非常に楽しみである。