ユーザーの視点は完全にひろゆき依存
――で、今日はギャンブル以外に一応ニコニコ動画についてもお話を聞かないといけないんですけど、この半年一緒にお仕事をされて、ドワンゴ取締役の夏野さんから見たひろゆきさんの業績というのは、いかがでしょうか。
夏野 業績!? そう来ましたか。ええと、ニコニコ動画は、常にユーザーの視点に立った、ユーザーが一番楽しんでもらえるようなプラットフォームであり、かつ、黒字になってお金もちゃんと回っていくというところを目指しているんですね。だから、ユーザーの感覚として「何でこいつら(運営)はこんなことやってるんだ」と思われたらダメじゃないですか。
このサービスを使って「気持ち良い」か、それとも「気持ち悪い」かということについて、ユーザーサイドに立って考えないといけない。しかもビジネスなので、単に好きとか嫌いとかではなくて「こういう理由だからこうしないとダメ」と指摘しなければいけない。ニコニコ動画においてそういう面は、完全にひろゆきに依存してますね。
現場の人間になればなるほどシステムの都合とか、リリース時期の都合とか、広告主の都合とかに影響された提案を出してくるわけです。だからビジネス寄りになったり、大人の事情優先になったりする。それらをビジネスモデルとして成立させるために僕もいろいろ口を出すんですけど、でも最終的にお客さんが離反してしまったら終わり。企業ってみんな、この大原則をどこかに忘れてきてしまうんですよ。
わざわざ「お客様の視点を」とか言ってる会社ほどダメですよね。その感覚がもう違う。ニコ動では、社内で新サービスを議論する中でひろゆきが「そういう出し方したらユーザーは反発するんじゃない」なんて言うことは、よくありますよね。
ひろゆき 最近はそんなにしゃべらないですけどね(笑)。僕、週に1回くらいしか会社に来ませんし、貢献度は低いと思いますけど。
ひろゆき氏は「そっち行くと危ない」と助言する人
――それにしても……そもそもニコニコ動画に関してひろゆきさんは、何をやっている人なんでしょう? 会社からは何をやってくれと言われてるんですか。
ひろゆき 何かやれと言われたことはないんじゃないかな? 「会議には来い」とか「電話したら来い」とか、そういうレベルですかね。遅刻はしないようにがんばってはいるんですけど、なかなか身体が言うことを聞かず(笑)
会社としては、黒字化して利益を上げて株主に貢献して、という命題はあるんだろうな、とは思ってます。でも、僕がそういうのを得意としていないということは、会社の人もたぶんみんな知ってるんですよ。だから、そういう面ではあんまり期待されていないと思います。
――2ちゃんねるについて言えば、現在どれだけ実務に携わっているかはともかく、ひろゆきさんは「2ちゃんねるの管理人」ですし、「2ちゃんねるを作った人」と言えば説明はつくと思うんですが、「ニコニコ動画の○○」と言うなら何でしょう。
ひろゆき 「ニコニコ動画が危ない方向に行きそうなときに『そっち行くと危ないよー』と助言をする人」、という感じですかね。動画のサービスというのはYouTubeとか他にもありますけど、ニコニコ動画はコミュニティであるというところが売りなので、ユーザーがどうやって満足感を得るかが一番の課題なんですね。
――「危ない方向」というのは、具体的にはどんな方向ですか。
ひろゆき 例えば、フリーソフトとしてユーザーさんが作っている閲覧ツールとかありますけど、中にはサーバーに過負荷をかけるもののように、会社にとっては喜ばしくないものもあって、最初のころ「そういうのは全部つぶそう」という動きが社内にあったんです。
でも、ツールを作るには時間や労力がかかるし、そもそもそのサービスに愛情を持ってないとそこまでできないじゃないですか。仮にそういう熱心なユーザーをお金で獲得しようと思ったら、どれくらいコストがかかるものなのかを考えてみたときに、僕はやっぱり「そういう(つぶすような)ことはやめたほうがいい」と思って、そう言ったんです。
「デメリットが見えたからつぶそう」ではなく、「そこまで想いを持ってくれているユーザーは排除するより育てた方がいい」ということは、コミュニティサービスをやってきた人でないと、なかなか言えないと思うんです。だから僕の役割は、「ニコニコ動画って楽しい」と思ってくれる人を育てるにはどうすればいいかというようなことを、たまーに突っ込む……くらいですかね。最近はみんなだいぶ慣れてきたんで、僕がいなくてもだいたい回ると思いますけど。
――ひろゆきさん自身が新サービスを考案するということはないんですか。
ひろゆき 誰かが考えたものに「こうしたほうがいいんじゃない」と言うことはありますけど、僕自身が考えたのはほとんどないんじゃないですかね。というか、新サービスのアイデアなんてだいたい雑談の中から生まれますから、最初に誰が言ったか覚えていないことのほうが多いです。生放送みたいな機能は誰でも思いつきますし。