キリンビールは11月26日、2009年6月1日に世界150カ国以上で楽しまれているスタウトタイプのビール「ギネス」の国内販売を開始予定と発表した。1964年から販売を手掛けるサッポロビールの関係者は「寝耳に水」であったそうだが、業界では早くからこの展開が噂されていた。
「ギネス」という銘柄を所有するのは、世界有数の酒類企業であるディアジオ(本社: イギリス)である。サッポロの酒類部門売上は年間3,264億円といわれているが、ディアジオは全体の売上が年間約2兆4,500億円。業界内では「スティール・パートナーズとの攻防如何で、ディアジオがサッポロの酒類部門を傘下におさめるシナリオもあるのでは」とささやかれていた。
ディアジオとサッポロビールに何があったのか
1960年代は、日本のビール業界全体が揺れ動いていた。1962年にはキリンビールのシェア拡大に対抗する目的でサッポロとアサヒビールは合併を模索。結果は破談となった。翌1963年にはサントリーがビールの製造・販売に乗り出す。こうして、現在の4大ビールメーカーが出揃ったわけだ。
「ギネス」の国内販売はちょうど1960年代からスタートしており、サッポロビールとディアジオは約半世紀に及ぶ取引があったわけだが、何が原因で両社は袂を分かつことになったのか。
現在、ディアジオ・キリンビール・サッポロビールの3社は睨み合いの状態となっている。サッポロの現場スタッフはディアジオ製品(「ギネス」「スミノフ アイス」)の販売協力をストップしていると聞くし、キリンビールは「ディアジオジャパンのマーケティング機能を当社で受け持つ」という発言が報じられ、翌日訂正記事で撤回するという顛末。ディアジオジャパンとしても今は詳しい話が出来る時期ではないと様子見の状態だ。
キリンは輸入ビールシェア1位の「バドワイザー」と2位の「ハイネケン」を国内で販売している(ギネスは4位)。今年2月からは「ハイネケン」を国内生産に切り替え、積極的なプロモーションを仕掛けていた。「ギネス」についてもライセンス生産をひとつの可能性として検討しているそうだ(サッポロビールも契約当初は自社生産を視野に入れていた。しかし、実際には現在も輸入販売にとどまっている。これは業界関係者によると「国内市場のみで考えると、採算が合わなかった」というのが理由らしい)。
さらに話を掘り下げていくと、ディアジオとサッポロビールには「ギネス」のブランド戦略に関して食い違いがあった。ディアジオ側が計画したキャンペーンに対してサッポロ側が協力に難色を示したケースもあり、提携による相乗効果も薄かったといわれている。
ディアジオジャパンはここ最近、「和食とギネス」のマッチングをテーマに掲げてきた。これまでの「ギネス」取扱店はアイリッシュパブやバーが中心だったが、和食を主体とするカジュアルな業態でも「ギネス」を扱うようになるのであれば、分母は飛躍的に大きくなる。
また、販売委託先がキリンビールに移管する2009年6月1日以降はこれまでの20L樽を15L樽に変更する予定だ。これまで20L樽ではさばききれなかった飲食店でも、ギネスを販売できるようになる可能性が出てきた。このようにして見ていくと、前向きな条件が整ってきている。