三菱自動車は、ダカールラリーなどに参戦し続けることで、営業戦略的に十分に「三菱 パジェロ」「三菱 パジェロ エボリューション」の名を世界に知らしめたとし、今回からレーシング ランサーにスイッチする。ベース車両は12月2日に発表された「三菱 ギャラン フォルティス スポーツバック」(海外では、「ランサー スポーツバック」)だ。2002年大会から施行されているFIAのグループT1規定に則り、2010年から施行される新レギュレーションにも一部前倒しで対応しているのが特徴で、スーパープロダクション仕様のクロスカントリーラリーカーだ。全長4475mm、全幅1990mm、ホイールベース2900mm、トレッド(前/後)1750/1750mm、車両重量1900kg(規定最低重量)。ギャランフォルティススポーツバックと比較すればわかるが、WRCのWRカーがベース車両にかなり近い形状を維持しているのに対し、こちらは大径タイヤの装着もあるが、ベース車両がわからないほどのデザインとなっている。
また、今回はディーゼルターボエンジンを初めて搭載。ターボは低速から高速までの全域で対応するために、エンジン両側のバンクそれぞれに大型と小型のふたつのタービンを備えた2ステージ型としている。V型6気筒で、排気量は3リッター。出力は208ps(206kW)以上、最大トルク66.3kg・m(650N・m)以上としている。
レーシング ランサーの開発は、まずエンジンの開発からスタート。2006年の4月から開始し、2007年6月には「パジェロ エボリューション」に搭載され、増岡選手が中心となってテストが進められた。2007年8月には車体側の開発もスタートし、2008年6月に1号車が完成。フランスのオフロードコースでのシェイクダウンを行った後、スペインとモロッコで1週間ずつのテストを実施、8月下旬から9月上旬、10月中旬から下旬の約2週間のテストをモロッコで実施した。そして、10月30日から11月2日にかけてポルトガルで開催された、FIAクロスカントリーバハ・インターナショナルカップ第6戦バハ・ポルトガルで、ステファン・ペテランセル/ジャン・ポール・コトレ組によって、デビュー戦総合優勝を果たしたという形だ。
新型レーシング ランサーの特徴
レーシング ランサーは軽量化をテーマに掲げて開発が行われ、まずフレームには新設計のスチール製一体構造マルチチューブラタイプが採用された。ボディはカーボン製だ。2010年からの新規定に対応してホイールベースを延長してあり、その結果スペースが生まれたことから、「パジェロ エボリューション」よりも燃料タンクの搭載位置を下げ、低重心化を実現。エンジンの高出力かと低燃費の両立により、燃料タンク容量も小型化することができた点も、軽量化に貢献している。また、スペアタイヤの積載位置をより車体中央に設置する形となり、結果として慣性モーメントが抑制され、ハンドリング性能が向上している。ボディ形状に関しては、近年のクロスカントリーラリーの高速化に対応するため、ベース車両のスタイリングの特徴である空力性能を重視したものになっている。
その他、インタークーラー用のラジエーターを車体後方に配置している点も特徴のひとつ。それにより、冷却風を導入するエアスクープがルーフ幅いっぱいに設けられており、外見的な特徴にもつながっている。トランスミッションはリカルド社製5速シーケンシャルマニュアルを採用。ディファレンシャルはシンプルな従来の2段減速機構から1段減速機構のシンプルな形に変更し、ハウジングもアルミ製からスチール製にして耐久性や剛性を向上させている。4WDシステムに関しては、「パジェロ エボリューション」から引き継いだ差動制限装置付きセンターデフ式フルタイム4WDを採用。サスは前後とも独立懸架型ダブルウィッシュボーン方式だ。ダンパーはBOS社製、ブレーキはブレンボ社製6ポッドキャリパー+16インチベンチレーテッドディスク、ホイールはOZ社製アルミホイール、タイヤはBFグッドリッチ社製ラリータイヤとなっている。
そのほか、環境に配慮し、損耗頻度の高いリヤマッドガードには三菱自動車独自開発の植物由来樹脂「グリーンプラスチック」を採用したほか、バレオ社製省エネタイプLEDライトなども採用している。また、三菱自動車はレーシング ランサーによる実戦を通じて、定圧縮比燃費や高圧燃料噴射と行ったディーゼル技術の開発と、四輪駆動技術の進化を進めていく予定だ。