Mozillaがモバイルへ手を伸ばす理由は単純だ。すでにインターネットへのアクセスの勢いはPCからモバイルデバイスへと移っている。海外であればスマートフォンといったガジェット、日本では携帯からのアクセスが増えている。イノベーションの舞台はPCからモバイルプラットフォームへ移っているわけだ。そうした成長するインターネットアクセスのプラットフォームで優れたユーザ体験を提供する、それがMozillaの使命というわけだ。
Mozillaには他のブラウザベンダにはない次の強力な2つの強みがある。
世界中にFirefox開発者とユーザがいる - 157名の従業員、1,000を越える開発者、2万を越えるテスタ、100万を越えるアクティブユーザ、2億の一般ユーザだ。この巨大リソースをモバイル開発にも適用できる
IEがほとんどのシェアを占める中、この4年間で20%ほどのシェアを獲得するところまで伸ばしてきたという実績と経験がある。この経験をこれから展開するモバイルプラットフォームにも活かせる
オープンソースとして成功した最大事例の1つがFirefoxであり、その能力と経験がモバイルプラットフォームでも活きてくる。
Mozillaモバイル戦略は、一切の妥協なし
Mozillaのモバイル戦略はとても単純だ。いくつか項目があるが、もっとも重要なものに絞ると次のものになる。
Firefoxと同じユーザエクスペリエンスを提供する。機能をダウンさせるといった妥協はしない
エンジンだけを提供するのではなく、UIも含めて完全なブラウザを提供する
携帯、スマートフォン、MIDなど幅広いデバイスにブラウザを提供する
コミュニティの協力をフル活用する
特に一番最初の戦略が重要だ。FennecはFirefoxのダウングレード版ではないということだ。Firefoxと同じ能力を妥協することなく提供する。Firefox向けのアドオンやエクステンションも大多数がそのまま使えることになるだろう。
2つ目については説明が必要だろう。ブラウザのエンジンだけを提供するのも1つの方法であるはずだ。しかしこれまでMozillaと携帯ベンダが協議してきた結果、携帯ベンダは独自のブラウザを開発することを望んでいなかったようだ。WebKitをエンジンとしてブラウザを開発している例にはAppleやNokiaがあるが、かなりのリソースを投入してブラウザの開発を続けている。多くの携帯ベンダはブラウザを開発することよりも完成されたブラウザを望んでいるということだ。またMozillaはエンジンだけで優れたユーザエクスペリエンスを提供できるとは考えていない。UIまで含めて考慮して初めて優れたユーザエクスペリエンスを提供できるという。
Firefoxでの成功例をモバイルデバイス制約を加味して再考
しかしながら、Fennecで取り組む戦略をそっくりそのままFirefoxと同じにするというわけにはいかない。PCとモバイルデバイスは制約や操作性という面で大きく異なっているからだ。Mozillaはその状況を認識しており、Firefoxで経験した成功体験をモバイル制約を加味した内容に再考して適用していくという。
ユーザエクスペリエンス - シンプルで簡単にコンテンツに高速にアクセスできるようにする
セキュリティ - 危険の自動検出や自動更新の実現、デバイス機能へのアクセスをユーザ制御下におく
互換性 - Web標準規約やエクステンションがそのままモバイルでも使えるようにする
そして、優れたUIとは「存在しないUI」だという。"アイコン"が使いやすいというものではなく、できればUIは何もなくても使える方が好ましい。モバイルデバイスは特に入力制限がPCよりも厳しい。コンテンツに簡単に高速にアクセスできることを最大優先度において、余計なUIを追加することなく自然に利用できるようにする、それがFennecのUIというわけだ。
セキュリティへの注力はFirefoxでもFennecでも変わらない。FirefoxよりもUIをシンプル化する必要があることから、セキュリティへの取り組みはより気を回し、単純なUIながらも効果的なものにする必要がある。