──最近はドライアイの人が増えていますよね。

若倉「統計では日本にだいたい700万~800万人のドライアイがいると言われています。コンタクトレンズ着用者の60~70%が乾燥感を訴えています。ただし、厳密な意味でドライアイと診断される人はそんなには多くありません。いわゆる「乾き目」を感じている人が非常に多いのは間違いありませんね。それは、生活習慣の中である程度治せるというか、ケアできるものです」

「たとえば、乾燥しやすい冬場に部屋やオフィスを加湿するとか、ドライ感が強い人はときどき目薬をさすとか、眼鏡をかけるのも1つの方法でしょう。コンタクトレンズにもドライ感を減らす残水量の多いものも開発されています。意識的に目を休めたり、瞬きすることも、とても大切です」

「パソコンや携帯でも瞬きが減るので、乾燥しやすくなります。オフィスは乾燥しているので、乾き感が強くなる人が多いと思いますが、それは自分でケアするというのが大切でしょう」

ドライアイやうつ病に間違われる眼瞼痙攣

──先生は、ドライアイとよく似た病気を研究されていますね?

若倉「ドライアイとよく間違えられる眼瞼痙攣(メージュ症候群)という病気です。ドライアイといわれる人の約10%がこの病気だと考えています。目にドライアイの所見がほとんどないのに乾いた感じがする、目をつぶっていたい、眩しい、しょぼしょぼする、痛い、渋い……といった愁訴がすごくたくさん出てきます」

「ふつうの眼科医はドライアイだと思い込んで、正しい診断に至らないことが多いですが、非常に辛い病気で、仕事が続けられなくなったり、歩いていて物にぶつかったり、階段で転んだり、そういうことが実際に起こる病気です。ドライアイではそんなことは絶対起こりません。ところが、これは強いドライアイだと眼科医に言われて、治療し続けている人がいます。もしドライアイが600万人いるなら、この病気は30~60万人くらいいると思いますが、現在3万人くらいしか把握されていません。そのくらい隠れた病気で、眼精疲労だとかドライアイだと言われて治療しても治らず、病的所見が少ないのにいろいろ言うものだから、心療内科で精神病だと言われてしまうのです」

「病名は、目が開けられなくなった人の目の周りがぴくぴく痙攣することからつけたものですが、そんなにひどくなったら正直、もう治しようがありません。初期なら対症療法で治ります。だから早期発見、早期治療がいいという話をあちこちで啓蒙しています。うつ病かと思ってうつ病の先生のところへ行くと、いろいろ薬をくれるから、薬をきっかけにさらに悪くなってしまう。安定剤や睡眠導入剤をきっかけでこの病気になる人もいるので、これがまた厄介なんです。今私がもっとも力を入れて取り組んでいる病気です」

──目は酷使せず、大事に使う。心的ストレスをためない。年に一度は眼科でチェックする。これが目の健康と上手につき合う方法ですね。ありがとうございました。

若倉 雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院院長。神経眼科、ぶどう膜炎、視神経炎、レーベル病など視神経や眼球運動の異常を専門とし、最近は眼瞼下垂、眼瞼痙攣、ベーチェット病など、他施設で扱いにくい病気の紹介が多い。病院は身体異常だけみればよいのでなく、ロービジョン者の社会、心理的支援もするべきと「目の相談室」も立ち上げた。著書は「視覚障害者のストレスと心理臨床」「目は快適でなくてはいけない」「目力の秘密」など多数。 日本眼科学会評議員、Neuro-ophthalmology誌代表編集委員、日本神経眼科学会理事長、国際神経眼科学会理事。東京大学、北里大学非常勤講師。