若倉雅登先生

40歳以上の17人に1人は緑内障だとの統計がある。75歳以上の日本人の約98%は白内障だという。顕微鏡レベルでの所見だが、これらは年齢とともに誰でも目の病気になりうることの証拠だ。ふだん気にもかけていなかったことが、実は恐ろしい目の病気の前触れだったとしたら……。眼科の権威である井上眼科病院院長・若倉雅登先生に伺う「中高年から気をつけたいの目の健康」後編は、老化とともに増える目の病気について、代表的な病状と予防法、最新治療法についてだ。

75歳以上の日本人の約98%は白内障

──目の老化で病気といえば、まず気にかかるのが白内障です。

若倉「白内障は、水晶体が濁る病気です。75歳以上では顕微鏡レベルも含めると、98%以上の人が白内障になっていると考えられます。つまり、100%近い人が目に何らかの濁りを持っていることになります。多少の濁りで不自由ということは必ずしもありませんが、レンズ(眼球)が全体的に若いときより少しずつ黄色くなってきます。若い時に見えた色と、歳とったときに見える色は少なからず違うはずです」

──手術でかんたんに治せると聞きました。

若倉「確かに白内障手術は、今は安全になりました。私が医者になった頃は、一週間くらい入院して水晶体ごと全部取るというような大掛かりな手術をしていました。濁った水晶体を摘出し、その後にコンタクトレンズをするとか、眼鏡をかけるとかしたものです。手術も30~40分かかりました。今では、だいたい15~20分以内で終わります。それだけ技術も進歩し、安全性も高まったといえます」

「白内障の予防にこれにといったものはありませんが、紫外線は目にとって危険因子です。また心疾患や糖尿病などの全身病も白内障の危険因子になることがあるので、軽症でもしっかりコントロールしておくことが大切です」

──手術はいつ受ければいいのでしょう?

若倉「『視力がいくつなら手術しましょう』ということではなく、その人の生活スタイルがあると思います。コタツで毎日過ごしていて、だいたい見えればいいという人と、まだスポーツもしたいし、物も書きたいという人とは、要求度が違いますね。そういうものを考慮した上で決定していくことが大切です。その人が白内障になって不自由になって、都合が悪くなってきたら、やりましょうということが原則です」

──白内障と並んで多い病気が緑内障ですね? こちらは恐い?

若倉「緑内障と聞くと、明日にでも失明すると思う人が多いですが、緑内障にも「開放隅角緑内障」と「閉塞隅角緑内障」の2種類があります。急に失明するのは閉塞隅角緑内障の発作で、90%以上のほとんどの緑内障は開放隅角緑内障です。その中には、「正常眼圧緑内障」といって、眼圧が正常なのに緑内障の症状が出る人がたくさんいるとわかってきました」

「開放隅角緑内障は、最初は自覚症状がありません。ですから、ドックなどで眼底を診てもらい、疑いがあれば視野の検査をして確定する病気です。年一回のドックや眼科検診をお勧めします。実は眼底を診れば、緑内障以外にも高血圧の状態、動脈硬化の状態などがわかるんです。眼底をしっかり診てもらうのは、体の健康診断の大事な要素だと思います。早期発見・早期治療に確実につながります」

──もし緑内障だと診断されたら?

若倉「この病気は、何十年もかかって視野が少しずつ侵されていきます。だから、70歳の人をつかまえて早期発見というのはあまり意味がありません。70歳の人の緑内障は、加齢による病気の始まりであって、一ヶ月に一回眼科へ通う必要があるかどうか、患者さんが選択すればいいのではないでしょうか。ただし、40~50代の人は放っておいたら、それは20~30年後に視野障害になって、最後には視力障害も起こってきます。若いうちに早く見つけたほうがいいでしょう」

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