プリンティングマネージメントシステムを自ら構築
クールメモリー、ボルナドファンを手に説明する杉井氏 |
印刷工程においては非常に多くの化学物質や資源を消費する。それ自体の削減を行うのは当然だが、避けられないのは印刷ミスをしたときだ。「印刷ミスは絶対に防止しなければなりません。例えば3000部印刷したあとにミスが発覚すれば、すべてを廃棄しなければなりません。インクや現像液、紙資源のムダ使いというだけでなく、コストにも直接響いてきます」と杉井氏。この印刷ミスをなくすために必要なのは業務の一元管理である。その予防に使われているのが、杉井氏自ら構築した「プリンティングマネージメント(以降、プリマジ)」だ。
本社と工場を結ぶネットワーク上に構築されたこのシステムは、プロジェクトの進行を社員全員がリアルタイムで把握するために使用されている。営業部門が受注したプロジェクトが制作部門に渡り、編集作業へと移る。さらに編集が済んだデータを製版し、実際に印刷を行う工場へと引き渡される。この一連業務の流れを各社員が把握することにより「経営に参加している」という意識を持たせることに繋がっている。
「プリマジで特長的なのはVPNを構築しているところです。これを業者に委託すると数百万円の料金が掛かります。しかし、弊社ではこれを5480円のルータ2台を購入するだけで実現しました。もちろん運用費用はゼロ円で、内線電話もIPを使いすべてこれでまかなっています」と杉井氏。「ITは知っているのと知らないのとでは大きな差が出るのです」と同氏は明るく語る。
ITの導入はそれ自体にコストが掛かるが、杉井氏は前職での経験を活かしてパソコンひとつとルータ2台で自前のシステムを構築し大きな効果をあげている。
ITによる一元化で対応も迅速に
プリマジは業務のすべてを一元化できる管理ツールで、すべての社員が利用することを前提としている。営業部門の社員が仕事を受注してくると、帰社後に得意先、案件名、部数、刷了日といったデータを入力する。データが入力されると、データベースには自動的に得意先名と案件名をコード化したフォルダが生成され、DTPを行うスタッフらはこのフォルダ内に各種データを集積し作業を進めていく。実はここにIT化を浸透させる秘訣があった。杉井氏は「プリマジを社員が使ってくれるようにするため『このフォルダが無ければ仕事がはじまらない』という状況を作ったのです。営業担当が入力したテキストは最後まで使われ、他部門でキーボードを使用する必要がありません。また、印刷には台割り(どのページにどんな内容を印刷するかを記述したもの)という設計図が必須なのですが、そうした今まで必須だった内容を電子化することで利便性を感じてもらい、意識を改革してきました」と語る。
フォルダは実際に作業を行う社員が自由に作成できるが、ひとつだけ徹底したルールが存在している。それは「校了」フォルダを作り、最終的に印刷に使われるデータを集積することだ。「実際に印刷を行う工場ではこのフォルダしか開きません。こうした共通ルールは全社員と意見を交わしながら設定してきました」と杉井氏。
このシステムは工場とオンラインで繋がっているため、印刷直前まで修正ができる。顧客からの要請で印刷直前に変更が加わったとしても対応は迅速に行える。「以前は、午前・午後の2便に分けMOを輸送し、そのデータで印刷を行っていました。この場合、時間に合わせるためのストレスも高く、印刷直前の直しの対応も工場で慣れないオペレーターが対応することになってしまいます。しかし、現在ではストレスも軽減され、印刷直前に変更があっても『校了フォルダ』のデータを本社の人間が書き換えるので、時間的にも余裕をもって対応できるようになっています」と杉井氏はその効果を語る。
また、印刷スケジュールにおいても以前は週末に予定表を手書きで作成、それを工場へファックスで送信して現場のベテランが進行を管理していた。実際の印刷用紙の種類や使用するインキを考慮して印刷の順番を考えないといけない。また、同じ黒単色で用紙サイズも同じなら続けて作業したほうが効率がよい。「印刷を行う順番を間違えれば何度もインクを詰め替え、紙を積み直さなくてはなりません。以前はベテランによる『経験と勘』で、それを補っていたのです。経営としてそれは避けなくてはなりません」と杉井氏は語る。現在ではプリマジを用いた「刷了日展開」という機能により、効率的なスケジューリングが可能となっている。最新の情報による効率的な業務運用が行えているのだ。