30年前から組み込み市場に製品を提供
Intelは、過去30年にわたって組み込み市場に向けた取り組みを続けてきており、古くはIntel 386やIntel 486といったプロセッサも提供を行っていた。とは言いつつも、その頃は、パソコンやワークステーション向けのプロセッサをベースとして組込機器に向けて応用展開していた、というのがその実態であった。
同社の日本法人であるインテルで組込機器向け製品を担当するマーケティング本部 エンベデッド製品・マーケティング・マネージャーの金哲也氏は、「今まで(Atomが登場する以前)は、組込機器と言っても、ストレージや通信、医療機器といったハイエンドの分野に"Xeon"、ある程度の消費電力が許容されるコンビニエンスストアのレジにあるPOS端末やアミューズメント機器に"Core 2 Duo"や"Pentium"、"Celeron"で対応していただけで、その下のSOHO向け機器や家庭向け機器での採用がなかなか進まなかった」とし、発熱や消費電力が問題であったことを指摘する。
インテルのマーケティング本部 エンベデッド製品・マーケティング・マネージャーである金哲也氏 |
バッテリの長寿命化などが要求されるこうした家庭用機器などの分野では低消費電力が売りのRISCプロセッサが多く用いられてきた。国内外の半導体ベンダが提供するマイコン製品の多くがRISCのCPUコアを搭載していることを考えていただければ、いかにRISCが低消費電力が必要とされる分野で使われているかが理解できるであろう。
Atomの登場で状況が激変
だが、2008年3月に「Atom」が発表されて以降、状況が大きく変わってきたという。Atomの消費電力は動作周波数800MHzの「Z500」で0.65W(TDP)、同1.6GHzでHyper-Threadingを搭載した「Z530」で2W(TDP)程度と、これまでの同社のプロセッサと比べて格段に低い消費電力で動作できることが特長。これにより「RISCアーキテクチャが浸透しているような組込機器の分野に対しても、喰いこむ事ができるようになった」(同)という。実際に、同社の組み込み分野向けのエンジニアがカスタマに対するサポートの案件も飛躍的に高まり、かなり忙しい状態が続いているという。
こうした背景には、「これまでRISCアーキテクチャを使用してきたカスタマは、低消費電力ながらコンピューティング性能、特に上位のスケール不足に悩むことが多かった」(同)といった問題があったほか、パフォーマンス・オプティマイゼーション(最適化)の問題で開発期間が長期化する、といった問題があった。
特に開発の長期化といった意味では、ツールの問題も大きい。ゲーム機や車載機器といった組込機器の多くは、基本のモデルをパソコン上で開発し、それをターゲットボードにポーティングする。しかし、パソコン(x86アーキテクチャ)上で開発したものがRISCアーキテクチャのボードに移るわけで、そこでミスマッチが発生し、ボトルネックとなる問題もあるという。
Atomの登場により、ハイエンドからローエンド/ローパワーの領域までIntel Architecture(IA)でカバーすることができるようになった。そのため、すでに存在する多くのIA-32プロセッサ向けソフトウェア開発ツールやソフトウェア開発技術者のノウハウが生かせるようになり、ひいては組込機器の開発コスト削減、開発期間短縮にもつながるようになるという。
これにより、「今までまったく付き合いがなかった分野からの問い合わせなども来るようになった」(同)としており、今後も組み込みにフォーカスし、「パフォーマンス/Wattの向上はもとより、それぞれの分野に応じたAtomプラットフォームを提供していくことで、躍進を狙う」(同)としており、第1弾として、2009年前半に、パッケージを変更し、産業温度範囲などに対応したAtomの提供を予定している。
なお、プロダクトラインの拡充については、現状、どのようなチップ構成になるのかは決まっていないらしく、「カスタマのニーズを見ながら判断していく」(同)とする。
というのも、Atomの発表から半年強程度しか経過しておらず、まだ具体的に次世代の展開をどうするかというところまで達しきる前に、予想以上の速さで市場が立ち上がったようで、「Atomのインパクトは想像以上に大きかった。ESECでの展示も各所のブログで取り上げられるなど、非常に好評で、その結果、エンドユーザーのニーズを汲み取りやすくなり今後のAtomの研究開発を含めて展開しやすくなった」と金氏は語る。
11月19日から開催されるEmbedded Technology 2008にも同社は出展するが、やはりAtomを中心に実機展示やデモなどを行う予定としている。