"偶発的な機会"を作り出せ - キャリアインキュベーション 荒井氏
続く第二部では、キャリア インキュベーション 代表取締役社長の荒井裕之氏が登壇。「自分らしいキャリアをつくる - キャリアはデザインできない」と題する講演で、キャリアデザインができない理由、自分らしいキャリアをつくるためのヒントを紹介した。
キャリア インキュベーション 代表取締役社長 荒井裕之氏 |
荒井氏は、リクルートに10年間勤務し、広告事業、情報ネットワーク事業の営業マネージャーを担当。その後、転職情報雑誌『type』の発行元であるキャリアデザインセンターに転職し、営業責任者、専務取締役、関連会社の社長を務め、2000年にキャリア インキュベーションを創業した「キャリア」に関するプロフェッショナルだ。
そんな同氏によると、現在「キャリアデザインはできない」ものになっているという。「キャリアデザインとは、目標を決めて、それに向かって遡って計画を立て行動すること。だが、現在は、世の中がすさまじいスピードで変化しており、技術やソリューションもすぐにコモディティ化している。そうしたなかでは、個人がみずからのキャリアの計画を立てて、ひたすら走っていくのはおよそ不可能になっている」(同氏)
実際、ITの世界を見ても、例えば、ERP(Enterprise Resource Planning)アプリケーションはパッケージとして急速にコモディティ化し、かつてのように高いコンサルティング・フィーをとるようなビジネスは成り立たなくなった。また、SIPS(Strategic Internet Professional Service)と呼ばれるようなWeb専門のコンサルティング会社も、今は見る影がない。近年の金融危機にまつわる企業の倒産やM&Aを見ても、「会社の寿命自体が、個人のキャリアよりも短い」という状況なのである。
そんななかで、荒井氏は、キャリアデザインに変わる新しい考え方を身につけておくことをすすめる。それが「プランド・ハプンスタンス・セオリー(Planned Happenstance Theory: 計画された偶発性理論)」である。プランド・ハプンスタンス・セオリーとは、米スタンフォード大学のジョン・クランボルツ教授が提唱する理論で、「キャリアの80%は、予期しない偶然のできごとによって形成されている」という前提に沿って行動しようというものだ。
「これまで、キャリアを決められない人は、優柔不断、決断力がないなどと思われてきたが、プランド・ハプンスタンス・セオリーでは、これをオープンマインドとして肯定的にとらえている。つまり、予期せぬ(偶発的な)出来事を学習の機会としてとらえ、出来事を意図的に(計画的に)生み出す積極的な行動をしようということだ」(荒井氏)
では、その偶然を積極的につくりだすための行動とは何だろうか。荒井氏は、それを「5つの行動」──好奇心を持つこと(Curiosity)、持続すること(Persistence)、楽観的に考える(Optimism)、柔軟でいること(Flexibility)、リスクをとる(Risk-Taking) として紹介。具体的には、それぞれ、「新しい学習機会を模索し、とことん突き詰める」、「あきらめずに努力し、学び取る」、「新しい機会を実現可能と捉える」、「信念、概念、態度、行動を変える」、「結果が不確実でも行動に移す、失敗をおそれない」ことを指している。
さらに、荒井氏は、自分らしいキャリアをつくるための考え方として、「3つの輪」──「Need」、「Can」、「Want」を紹介。例えば、Can(自分の経験の棚卸し、保有しているスキルや知識)と、Want(充実感を感じたとき/こと、やる気・やりがいを感じるとき/こと)との包含関係を探ることが、キャリアをつくるヒントになるとアドバイスした。
「Can×Wantを理解していないと、転職も失敗しがち。よくあるケースは、転職そのものが目的化した人や、勝ち負けにこだわりすぎる人、周囲に踊らされる人。そうならないためにも、5つの行動と3つの輪を参考にしながら、自分のキャリアをつくっていってほしい」(荒井氏)