Cyborg Mouseは電動可変の話題が先行しており、本稿でもまずはその点について取り上げた。しかし実は、Cyborg Mouseで本来語られるべき点は、親指部分に置かれたハットスイッチにある。このスイッチは十時方向キーとトップボタンで構成されている。フライトシミュレーター用ジョイスティックのてっぺんにあるハットスイッチと似たものだ。Saitekは「Pro Flight」シリーズというフライトシミュレーター用コントローラをはじめ、さまざまなジョイスティックを製品化している。マウスにまでハットスイッチを付けるとは、いかにもSaitekらしいアイデアである。
ハットスイッチの各方向と親指部分に集中配置されている3つのボタンは付属ユーティリティソフト「プロファイルエディタ」でカスタマイズできる。素っ気ないスタイルなので何をしたらいいか迷ったが、日本語マニュアルがPDFファイルで用意されており、これが大いに参考になる。A4サイズで16ページにわたる詳細なもので、キー単体の登録からタイマーを使った遅延入力マクロまで分かりやすく書かれている。キーボードを実際に操作したときとマクロの認識の違いなど、マクロ自体の仕組みまで丁寧に解説されているので、一読する価値はある。
面白いことに、このエディタでハットスイッチ部分にカーソルキーや[W][A][S][D]キーを割り当てると、ゲーム内のキャラクターの移動操作が行える。FPSと呼ばれる3Dシューティングゲームで遊ぶ場合は、左手でキーボードの"WASD"を押してキャラクターの移動、右手のマウスで視点移動という操作をする。その左手部分のキーをマウスのハットスイッチに移植するわけだ。これにより、FPSの操作をすべてこの「Cyborg Mouse」だけで実行できる。
自由自在に動き回るには訓練が必要だろうが、これは楽しい試みである。マウスひとつで気軽に遊ぶというパターンよりも、チーム戦のFPSで司令塔役のプレーヤーに適しているかもしれない。自分の動きは右手で済ませて、空いた左手はキーボードチャットに使い、メンバーに指示を出せる。そんな使い方もアリだろう。チャットを多用するといえばMMORPGも同様で、やはり右手でキャラの動きをすべて掌握し、左手を自由に使える。この考え方を推し進めると、もしかしたらSaitekは、マウスでフライトシミュレーターを操作させようと考えているかもしれない。
マウスには3つのプロファイルが登録でき、マウスに搭載されたモードボタンで呼び出せる。ゲームタイトルごと、あるいはFPS、RPG、仕事作業など用途別に設定するといい。プロファイル自体をファイル化して保存、呼び出しもできるから、保有しているすべてのゲームに対して個別に設定することも可能である。繰り返すが、前述のように、ここにマウスのサイズや解像度が登録できたらもっと良かった。この点は本当に惜しいところだ。
なお、細かいところだが、ホイールのクリック感が良かった。ホイールボタンのクリック感は3段階で調整できる。これをもっとも荒くすると、しっかりと切り替えた実感があり、ホイールボタンをFPSにおける武器の切り替えに使うときに適している。クリック感を細かくすればドキュメントのスクロールに最適だ。このホイールは右方向にしか倒れないという仕組みも面白い。文書ファイル上でホイールを右に倒すと全方向スクロールモードになる。これは左右に倒すよりもずっと使いやすかった。
電動可変というアクの強いギミックは、喜んで欲しがる人もいる一方で、よけいな機能だと敬遠する人もいるだろう。しかし上記のように、「Cyborg Mouse」は他にも評価すべきメリットが多いことを付記しておく。