最近東京で、郷土料理を売りにする飲食店が増えているのをご存知だろうか。地方出身者が東京で地元の味を懐かしむだけでなく、知らない土地の名物が楽しめると様々な客層が通い、人気を集めているのだ。そして、人気を集める郷土料理店の多くが、オリジナル色を強く出している。ここでは、"東京ならでは"の進化を遂げつつある郷土料理店に注目し、レポートしていく。

郷土料理店を通して、その土地のよさを丸ごとアピール

北海道料理「函館銀座別邸」(東京・銀座)、秋田料理「稲庭」(東京・赤坂)。どちらも郷土料理店だが、中に入ってみるといわゆる郷土料理店のイメージとは少し違った。個人的には、郷土料理店というと民芸品が飾ってあり、アットホームな雰囲気というイメージを持っていたからだ。店の中に入ってみると、「函館銀座別邸」はまるで料亭のよう。個室も充実していて、色々なシーンで重宝しそうだ。「稲庭」はすっきりとした内装で、モダンタイプ。

「函館銀座別邸」。写真右は、店内にある7m幅のいけすから運ばれる活けのイカを使った「お造り・活烏賊」(4,900円~)

写真左は「タラバガニコース」(全8品・12,000円)イメージ。右は「キンキの湯煮」(7,800円~)。2品共「函館銀座別邸」のメニューより

肝心の料理のほうはというと、「函館銀座別邸」は、とにかく"蟹"。タラバ・ズワイ・毛蟹と、とにかく"蟹"づくしなのである。しゃぶしゃぶやせいろ蒸し、甲羅焼と様々な調理法で蟹が楽しめる。その他にも北海道直送の海の幸をたっぷりと盛り込んだメニューがウリだ。「稲庭」は、比内地鶏や稲庭うどんをメインにしつつ、きりたんぽなど秋田の郷土料理を提供している。両店共に、"豪快! ボリューム満点!!"といった量感をアピールしているというよりかは、盛り付けや提供法に繊細さがあり、また食材使いにもオリジナルの工夫があり、洗練された印象を受ける。

東京・赤坂にある「稲庭」。写真右は「稲庭うどん」(1,100円~)。

「稲庭」の「秋の稲穂コース」(全9品・5,000円)

「函館銀座別邸」と「稲庭」を経営するのはエイチワイシステム。2004年、東京・銀座に秋田の郷土料理店「なまはげ」を出店後、全国47都道府県それぞれの郷土料理店を出すべく展開中で、同社代表の安田久氏に郷土料理店展開のきっかけを聞いてみた。

「もともと、商工会議所やJAなどから依頼を受けて、講演で全国各地をまわっていました。そのうち、各地の生産者から『せっかくいい食材や伝統工芸があるのに後継者がいない。販路が拡大できない』と相談を受けることが多くなりました。そこで、飲食店のノウハウをいかして地方活性化に貢献できないかと考え、まずは私の出身地でもある秋田の郷土料理店『なまはげ』をオープンしました」。

産地直送の食材を使った郷土料理の提供や、秋田の伝統を紹介するなまはげショーを行なってきた。器には大館曲げわっぱや川連漆器(かわつらしっき)といった伝統工芸品を使うなど、秋田を丸ごとPRする"地方活性化店舗"をつくりあげていったという。

東京での出店にあたり、同社ではその県に縁のない人でも日常的に来店してもらえるようにと、産地直送の食材を使いつつ、東京のお客にも受け入れやすい味を独自に開発。また内装についても郷土色を出しすぎず、東京に馴染むようなスタイリッシュな内装を心がけることで、"新"郷土料理店としてサラリーマンを中心に人気を集めている。