さて、コンクールに話を戻すとしよう。同コンクールは国産ワインコンクール実行委員会が主催で、山梨県が中心となって運営してきた。「国産ワインの品質を高めること、その結果を一般の方に伝えること」(山梨県商工労働部 地場産業担当主任 齋藤浩志さん)を目的として、スタートするまで準備に1年近い期間を費やした。日本ワイナリー協会や各酒造組合、山梨県のワインセンターを通じて交流のあったボルドー大学の協力を取り付け、2002年に第1回を迎えている。

出品の条件は、国産ぶどうを100%使用していること。ぶどうの品種によってカテゴリーが分けられ、ブラインドテイスティングで審査を行っている。第1回の結果はエントリー数418に対して金賞は2つ。今年はエントリー数622点で金賞14と全体のレベルが上がっていることが見て取れる。同コンクールの結果、すなわち高品質な国産ワインは、日本の外交ルートを通じて、全世界に伝播していくという。

洞爺湖サミットの社交ディナーで外国産ワイン

話が前後するが、コンクール冒頭の挨拶での横内正明名山梨県知事のコメントが印象的だった。「なぜ、日本の公式ディナーで日本のワインを使用しないのか」。

「日本のワインを国際舞台へ」と述べる横内正明名山梨県知事

今年7月に開催された洞爺湖サミットの社交ディナーを見ると、選ばれたワインはフランス、アメリカ、ハンガリーのものである。公式な社交ディナーの場では、フランスで開催されたらフランスワイン、ドイツで開催されたらドイツワインが供される。このような場面で自国のワインをお披露目するのは、国際的な常識といってもよいだろう。しかし、日本政府はこれまで国産ワインを積極的には使用してこなかった。横内知事、このような状況を打破したいと考えていたのだ。「世界中に189の在外公館があります。私は2007年の国産ワインコンクールの受賞リストを送り、晩餐会などで日本の優秀なワインを使っていただこうと考えました」。

このような呼びかけに対し、18の大使館が応え、約1,000本の国産ワインが社交の席で消費されたという。その評判は上々で、和食に合わせるだけではなく、その国の伝統的な料理とも合わせてみたいといった感想があったようだ。

国産ワインコンクールの審査員の1人であるボルドー大学醸造学部のジル・ド・ルベル教授は今回の審査を振り返り、このように述べた。「日本のワインの品質は着実に向上しています。欧州で受けいれられるためには、欧州で評価されるワイン造りを心掛けることが大事です。それはすなわち、果実味が豊かで、バランスが良いワイン。質のよい日本のワインはフランス国内の寿司バーだけではなく、フランス料理店にも置けるようにしてはどうだろうか」。

彼は日本産ワインを手放しで賞賛しているわけではない。こうも述べている。「明らかに欠陥のあるワインは少なくなってきた(が、ゼロではない)。日本の風土に合っているかどうか、ぶどう品種を選択すべき時期に来ているのでしょう。合わないものは、諦めることも大切です」。

ぶどう栽培には、近年の温暖化も少なからず影響を与えているようだ。造り手の感想として「山梨県内は、夜の気温が下がらなくなっています。『甲州』は影響がないと聞きますが、『カベルネ』が色づかないようになりました」という話も聞いた。

金賞授賞式。複数の金賞を受賞したワイナリーもある

ロバート・パーカーも注目

国産ワインの注目度のたかまりを裏付ける出来事として、こんなこともあった。今年の春頃、なんと世界的に有名なワイン評論家であるロバート・パーカー氏が密かに来日し、いくつかのワイナリーを訪問したというのだ。また、フランスの新聞『ル・モンド』や『フィガロ』でも日本のワインが取り上げられている。ジル・ド・ルベル教授も、「フランスのメディアは『甲州』にも注目しています」とコメント。

このように、世界的に注目が高まっている国産ワイン。皆さんもこの機会に、様々なテロワール(ワインづくりに影響する土壌や気候など、その土地特有の個性)を味わってみたらいかがだろうか。