次世代に向けてTIM SWEENEY氏が学んだこと
セッションの最後には、TIM SWEENEY氏は、今世代エンジンのUnreal Engine 3.0(UE3)の開発で学んだこと、そして次世代エンジン開発に活かしたい事柄について述べた。
「2012年~2020年の間に登場するプロセッサは今のものよりも20倍高速になるが、ゲーム開発予算は20倍にはならないので、結局のところ、その性能を犠牲にしてでも生産性を向上する努力をすべきである」(TIM SWEENEY氏)
また、「扱いやすいハードウェアが高性能なハードウェアに優る」ということを、今世代のUE3の開発で学んだとも言っている。
実はEPIC GAMESはPS3版UE3の開発には相当苦労したと噂されており、「性能を犠牲にしてでも生産性を高めること」の実現が、PS3版UE3で相当困難だったと推測される。おそらくこの発言はPS3版UE3開発をやや自虐的に振り返って言っている彼なりのジョークセンスだと思うが、いずれにせよ、メッセージとして「扱いやすくなければ高性能が活かしようがない」と言うことが含まれる。
高性能になれば出来ることが増えるが、開発予算の方はそれほど大きくはならないので、つまりは開発効率を上げるための努力が今まで以上に必要になるということになる。開発効率を上げるためには扱いやすくて優秀なミドルウェアやツールが必要になるわけで、2012年以降のゲーム開発ではこの傾向が今まで以上に強まるであろう、ということを言っているのだ。
「1週間最適化に費やすくらいならば1週間新しいゲーム要素を追加するのに費やした方がマシだ。とかく、今世代のハードウェアは難しい」(TIM SWEENEY氏)
TIM SWEENEY氏は、今世代のゲーム機、そしてPCハードウェアはやや迷走した状態で設計された手応えを感じている、と述べている。
氏の意見では、シングルスレッド・システムを開発するのに比べて、マルチスレッドシステムを開発する際の開発者にかかる負荷は「時間、予算、難度」の観点で約二倍程度と感じたという。しかし、この「二倍の開発負荷」は得られるパフォーマンスや時代への迎合を考えれば十分受け入れることができたとも言っている。
しかし、氏の経験則ではPS3のCELLプロセッサへのルーチンへの最適化は約5倍の開発負荷がかかったと感じ、さらに、GPGPUへの実装は10倍、あるいはそれ以上の開発努力が必要だったと振り返っている。
そして、2倍以上の開発負荷は、多くのゲームスタジオ、ソフトハウスでは、費用対効果の面で割に合わない、というのがEPIC GAMESとしての見解だ。
これは、まぁうなずける部分が多い。
現在、PCやXbox 360のマルチコアCPUに対応したマルチスレッドベースのゲームエンジンやゲームタイトルは比較的多くなってきたが、CELLプロセッサの7基のSPE(Synergistic Processor Element)を使いこなせているのは大手スタジオか、ファーストパーティくらいなのは、まさにそうした理由からだろう。
「次世代ハードウェアはとにかくソフトウェア開発者の視点に立って使いやすいものを望みたい」(TIM SWEENEY氏)
この言葉には重みがある。
新しいプログラミングテクニックを要するハードウェア(CELL?)、メモリシステムが分断されたアーキテクチャ(PS3?)、制限の多いGPGPU(現在のGPGPU?)は開発負荷が大きすぎる(筆者注:ここのスライドは訳が若干変なのでTIM SWEENEY氏にお願いして原版を頂いた) |
UE3の開発は2003年に始まり、最初のタイトルである「Gears of War」が発売されたのが2006年。開発期間は足かけ4年であった。次世代エンジンの開発は同じくらいか、それ以上掛かるだろうとTIM SWEENEY氏は見ている。EPIC GAMESでは、今回のレポートの前編、後編の今回で紹介したような仮想的に次世代ハードウェアを想定して、次世代ゲームエンジンの開発に乗りだしているという。
CPU & GPU統合型のメニーコア・プロセッサを搭載したPC、ゲーム機を想定した次世代ゲームエンジンの開発競争は既に始まっている。
(トライゼット西川善司)