西川善司的には2008年の夏は北京オリンピックではなく、ゴッド・オブ・ハゲオヤジ……じゃなかった「ゴッド・オブ・ウォー」の夏だった。明けても暮れても両腕に結ばれた双剣を振りまわしていたような気がする……。
バイオレンスでマッチョなオヤジさん、PSPで再臨!
なぜかはわからない。しかし、ゲームプラットフォームのイメージキャラクターというのは、美少女ではなくて、オヤジと相場が決まってきた。任天堂プラットフォームのイメージゲームキャラといったら、やっぱ声変わりを忘れたあのサスペンダーのヒゲオヤジだろう。マイクロソフトXboxプラットフォームならば、ヘルメットの機械化兵オヤジ。そしてソニー・プレイステーション・プラットフォームといえば……そう、上半身裸のマッチョでバイオレンスなスキンヘッド・オヤジ、"クレイトス"だ。いわずと知れた「ゴッド・オブ・ウォー」(以下、GOW)シリーズの主人公である。
え? GOWってカプコンから発売されているのに、ソニーの? なんで? ……と思った人、鋭い。実はGOWシリーズはもともとはソニー・コンピュータエンタテインメント・アメリカ(SCEA)・サンタモニカスタジオの作品で、バリバリのソニー純正作品。だが、日本では諸事情でソニー(SCE)からではなく、カプコンから発売されている。諸事情というのは別にオヤジだからというわけではない。念のため。ホントに冗談抜きで欧米ではクレイトスはクラッシュ・バンディクー以来のプレイステーション・プラットフォームの人気看板キャラなのだ。
このGOWは、SCEA純正ゲーム作品の中において、アメリカではとにかく人気が高い作品で、他のゲームへの影響もすごい。ここ最近のアクションゲームのバイオレンス表現はほとんどがGOWの影響を受けているといっても過言ではないほど。そんな大人気のオヤジさんがプレイステーション・ポータブルに登場したもんだから、さあ、大変。アメリカでは、これまで携帯ゲーム機には冷めていたコアなゲームファン達までがこぞってPSPに飛びつき始めたというくらい求心力のあるタイトルなのだ(マジ)。
「GOW」ってどんなゲーム?
GOWは現在までに『ゴッド・オブ・ウォー』(2005)、『ゴッド・オブ・ウォーII 終焉への序曲』(2007)がプレイステーション 2向けに発売されており、『ゴッド・オブ・ウォー 落日の悲愴曲』(2008)は第三作目となる。PSP版の本作は、焼き直しではなくて完全新作。しかも、ストーリーや時代背景は、PS2向けの2作品よりも前に設定されているのだ。よって、GOWシリーズが気になりながらも躊躇して手を出せなかった人は、本作からプレイしてPS2版に移行すれば、クレイトスの冒険が時系列的に楽しめちゃうので、丁度いいタイミングだ。
では、そもそもGOWシリーズはどんなゲームなんだろうか?
GOWシリーズはギリシャ神話の世界観がベース。まだ人類が神々との対話が出来ていた時代、神々も人間も我が強くて、自らの欲望のままに他人の犠牲をもいとわないような価値観の時代がゲームの舞台となっている。紀元前9世紀頃にギリシアのペロポネソス半島に実在した都市国家「スパルタ」。大ヒットアクション映画『300』(2007、アメリカ)でも描かれた、あの激しい文明観を持ったスパルタ国の戦士がGOWシリーズの主人公クレイトスだ。
人並み外れた戦闘能力で数々の戦争で勝利を収め、隣国から恐れられたクレイトスだったが、ある戦争で窮地に追い込まれてしまう。そこでクレイトスは天の神々に戦争の勝利を懇願。これに戦争の神アレスが応え、クレイトスに神通力を与えるが、その引き替えに神々の僕として働く契約を交わすことになってしまう。その契約を確固なものとするために戦神アレスは、クレイトスに自分の妻子を自ら殺めるような謀略を敷く。かくしてクレイトスは無敵の神通力を持った戦士となるが、心に大きな傷を受け、次第に神々への怨念も抱き始めるのであった……。
一作目『ゴッド・オブ・ウォー』は、この神々への怨念が爆発して戦神アレスを討つまでの冒険が描かれる。そしてアレスに取って代わって新たな戦神となったクレイトスだったが、その荒くれぶりが全能の神ゼウスの怒りを買い、ついには神々の世界から追放されてしまう。2作目『ゴッド・オブ・ウォーII 終焉への序曲』では、その怒りがクレイトスに"神殺し"を決意させ、巨人族タイタンのパワーを身に付けての全能神ゼウス討伐までの旅が描かれる。
本作は、PS2版一作目にムービーでしか描かれていなかった「神々の僕」となる契約を交わした直後からが描かれており、PS2版一作目で「戦神アレス討伐」を決意した直接の動機がプレイヤーに伝わるストーリーとなっている。PSPものにありがちな、いわゆる外伝ではなく、正統なるクレイトス・サーガを成す物語となっているのだ。