関東の村では民具製作の実演やイベントも

信越の村を後にすると、次は関東の村九十九里浜で地引き網漁の網元だった「作田家住宅」が右手に現れた。屋根がふたつに分かれていて、分棟型民家と呼ばれる。屋根と屋根の間には丸太を割った雨どいがあり、家に雨が入らない仕組みとなっている。この家の見どころは、居間の梁。曲がった太い松をダイナミックかつ巧みに組み合わせており、芸術的と言っても過言ではない。このような梁は、合掌造りなどでも見られることがある。

作田家の外観。右側で屋根が分かれている

たいへん印象的な作田家の梁

再び坂の小道を上がっていく。途中に沖永良部島(鹿児島県)の高倉がある。さらに上がった先に建っている「太田家住宅」も分棟型民家だ。「作田家住宅」に比べ、屋根がほぼ中央でふたつに分かれていて、その特徴はよりわかりやすい。

沖永良部島の高倉

中央で屋根が分かれた太田家

慣れた手つきで竹細工が作られていく

庭では、民具製作技術保存会による竹細工の作業が行われていた。細く割った竹を編み、水切り道具を製作している。編み込む作業はそれほど難しくはないが、竹を上手に細く割(さ)くには技術を要するという。作業を見ていて、昔の道具のあたたかみはこれからより求められるのではないかと思った。保存会は「竹細工」のほか、「はた織」「わら細工」「研究・編集」のグループがあり、誰でも入会できるという(民家園ウェブサイト参照)。

ゆるやかな坂を下り、神奈川の村へと移る。「北村家住宅」は秦野市にあった家で、移築の際、材料から貞享4年(1687年)と墨書された年号が発見された。居間の床は竹すのこでできている。これは木材の板より安いために用いられたものだという。

北村家の竹すのこの床

「北村家住宅」の前には、神奈川の村の建物のほかに、東北の村の「菅原家住宅」(山形県鶴岡市)も見える。その棟(屋根の頂)には、神社で見られる棟仕舞いの方法のひとつ千木(ちぎ)に似た「ぐしぐら」と呼ばれる板が組まれている。神奈川の方の「清宮家住宅」の棟は草を生やしていたが、これも茅葺き屋根のひとつの技法である。

板が組まれた菅原家の屋根

清宮家。草の生えた屋根が見える

ここから奥へ山道を上がっていくと、志摩半島の漁村にあった歌舞伎舞台「船越の舞台」が見られる。直径18尺(約5.5メートル)の回り舞台を備えているのが特徴だ。特別公開の際に内部を見学できる。

船越の舞台。普段は閉められている

「船越の舞台」まで上がる階段は、結構長い。宿場からの道のりも、実際に山の中を歩いているので、なかなか歩き応えがある。園内歩きは、古民家の里と里を巡る、ちょっとしたハイキングともいえるだろう。自分のペースで楽しめば、思った以上に「旅気分」が味わえる。

民家園では、さまざまな行事も開催されている。先ほどの「船越の舞台」の特別公開をはじめ、人形浄瑠璃、お月見、お茶会、民具頒布会、古民家ライトアップなど、その内容はバラエティに富んでいる。事前にチェックして、より楽しい民家園でのひとときを過ごそう。

上の写真は藍染の体験の様子。9月には月見のイベントもあるそうだ(イメージ右)。詳細は問い合わせを