残暑もようやく収まってきたこの頃、気軽に小旅行を楽しみたい気分……。でも、まだガソリンも物価も高いし、ゼイタクしている場合じゃない。そんなふうにため息を漏らしている方にオススメなのが神奈川県川崎市にある川崎市立日本民家園だ。日本民家園には、主に東日本の代表的な、江戸時代の民家など25軒の文化財建造物が移築されている。ここへ行けば、日本各地を旅した気分になれるだけでなく"時代トリップ"が可能なのである。
茅葺き屋根の家が建ち並ぶ日本の田舎の原風景は、小田急線向ヶ丘遊園駅から徒歩10分強の山中に広がっている。その山間(やまあい)の里に足を踏み入れると、時の流れもいつのまにかゆったりと感じられる。自然と懐かしさを感じるかもしれない。秋には月見などの行事も用意されている。
宿場から信越の村へ
民家園の中へ入ると、まず右手に「原家住宅」の立派な構えが見える。これは川崎市中原区にあった明治後半期の建物。瓦屋根も重厚感があって立派だが、部屋のシャンデリアもなかなか見応えがある。
その先に「宿場」の札が立ち、ここからが本格的な民家園の始まりとなる。ゆるやかな坂の上には「佐地家の門」。19世紀初期のもので、尾張(名古屋)の武家屋敷の入口である。門に隣接して部屋があり、主人のお供の控え室となっていた。
門の裏には「三澤家住宅」が建つ。伊那街道の伊那部(いなべ)宿(長野県伊那市)にあった薬屋で、江戸時代には代々組頭を務めていた家柄だったという。屋根は石置きの板葺き。建物前の細い坂道を上がると、その全容が見渡せた。
この細道は信越の村へと続く。どこか奥深い田舎の山を歩く気分になっていると、目の前に茅葺きの屋根が現れた。しかも、予想以上に大きい。いわゆる合掌造りの建物だ。豪雪地帯であるため屋根は急勾配、空に背伸びをしているかのように見える。
4つ並ぶ家は18世紀から19世紀に建築された。うち3つは富山県と岐阜県の境にある越中五箇山(富山県南砺市)の集落から移築されたもの。「山下家住宅」は飛騨白川郷から川崎市に移築され料亭として使われていた建物を再移築した合掌造りの家。現在は休息所、そば処になっている。古民家でそばや甘味を味わうのも、風情があっていい。