インターネットの登場が情報のやり取りから売買取引まですべてを加速させるなかで、新たな弊害も顕在化してきている。9月8日(米国時間)に発生した米ユナイテッド航空の親会社UAL(NASDAQ: UAUA)の株価急落事件は、まさにその典型例だといえるだろう。
2002年に同社が行った米連邦破産法第11条申請のニュースが誤配信されたことで、8日の取引スタート時には12ドル前後だった株価は3ドルまで急落、株取引を一時停止する事態にまで発展した。取引日当日にはUALから誤報に関する緊急声明が出され、ニュースの1次ソースとなった米フロリダ州フォートローダーデールの地元紙Sun Sentinelとその母体で記事の配信元でもある米Tribuneを名指しで非難した。一方で当事者となったNASDAQ、Google、Tribuneはニュース配信から株価下落までのプロセスの分析を開始し、10日時点でそれぞれの意見が出揃った形となった。まずは事件の経緯について、簡単にみていこう。
UAL株価急落までの流れ
事件の発端は、前述の2002年のUALの破産申請を報じたChicago Tribuneの記事が系列のSun Sentinelのサイトに出現したことにさかのぼる。その後、Googleのニュース収集・検索サイトであるGoogle Newsのクローラ(Crawler)によって当該の記事が拾われ、7日の日曜日に新着ニュースとしてGoogle News上に出現する状態となった。
当日はまだ休日ということもありアクセス数も少なく、後述のような株取引に関する問題も起きていなかった。8日午前9時半(EDT: 東海岸時間)のニューヨーク株式市場オープン直後は何事もなく過ぎていたものの、Google News上に出現した当該のニュースを通信社のBloombergが2次情報として登録会員に対して配信している。これら会員は株式や為替トレーダーなどが利用しているケースが多く、ニュースが出回り始めた午前11時ごろにはUAL株に対する売りが殺到して株価は急落、12ドル台の水準から一気に3ドルまで75%超の下落となった。NASDAQは直後にUAL株の取引を停止し、その間にUALは当該のニュースが誤報である緊急声明を発表した。約90分後の午後12時半に取引が再開され、株価は一気に元の水準まで戻ったが、結局同日の終値は10.92ドルと前日比1.38ドル安(-11.22%)で取引を終えた。
これが事件の一連の流れだ。Tribuneの古い記事がなぜか系列社のWebサイトに掲載され、それがGoogle Newsによって拾われ、さらにそれを2次ソースとして通信社がニュースとして配信、それを見た投資家やトレーダーらが反応した――というストーリーである。最大の被害者は間違った情報に振り回されたUALと、それによって大損を被った株式トレーダーらだといえる。今後損害賠償請求など訴訟問題に発展する可能性のある今回の事件だが、それぞれの当事者の調査結果や言い分をまとめてみる。