パワードスーツは男子の夢である。乗り込んで操縦する巨大ロボットも捨てがたいが、「強くなりたい」という願望をよりダイレクトに満たしてくれるのは、まるで鎧のように装着できるパワードスーツの方だろう。これは全くのおとぎ話ではなく、現在の技術でも、人工筋肉(空気圧で動くタイプが一般的)を用いたマッスルスーツや、モーターを使ったロボットスーツと呼ばれるものは開発されている。
この分野で最も実用化が近いのは、日本のCYBERDYNE(サイバーダイン)というベンチャー企業が開発しているロボットスーツ「HAL™(Hybrid Assistive Limb)」ではないだろうか。もちろん軍用ではなく、介護・福祉向けではあるのだが、すでに大和ハウス工業が総代理店に決まっており、まもなくリース事業が開始される見込みだ。工場も建設中で、年間500体の生産が可能になるという。もう夢ではないのだ。
映画『アイアンマン』には、主人公トニー・スタークが開発し、自ら装着するパワードスーツが登場する。一般的なヒーローものでは、主人公は特殊な能力を持っていたりするものだが、この映画のトニーは大企業のCEO、そして天才的な発明家であり、自分で作ったパワードスーツを着て強くなっていく。特に面白いのはマークI、II、IIIと改良されていくことで、開発する過程(実験する様子など)をこれほどリアルに描いた映画は記憶にない。
マークIは、武装組織に拉致されたトニーが脱出のために開発したアイアンマンの初期バージョン。マークII/IIIとは異なり、十分な設備・材料がない敵のアジトで作り出したもので、しかも見張りの目を盗んでの開発である。テストも満足に行えるはずはなく、どちらかといえばプロトタイプと言うべきものだ。なんとか脱出には成功したものの、地面に激突して大破してしまう。
生還したトニーが次なる目的のために開発したのがマークIIだ。3DインタフェースのCADなども使っており、外装のデザインは一気に洗練されたものになった。すぐにマークIIIに移行したため、劇中ではほとんど出番がなかったのだが、私が案外気に入っているのはシルバーカラーのこのマークIIである。ロボットマニアにとっては、この金属感が何ともたまらない。
マークIIIでは、マークIIでの問題を解決するために、外装が金とチタンの合金に変更された。このくらいの改良であれば、マークIIの機体を流用してマークIIIを作っても良さそうなものだが、トニーは新規にマークIIIを作っている。これは多分、マークIIをバックアップ機として考えているのだろう。現実のロボットは、すぐにモーターは焼けるし、ギアは欠けるし、ケーブルは切れるものだ。いまどきのヒーローは「バックアップは必須」と心得ていて欲しい。
自宅に作業場があって、トニーはここでアイアンマンの改良に取り組んでいく。アイアンマンは飛ぶことも可能なのだが(マークIIIはなんとステルス戦闘機とも戦ってしまう!)、室内でテストするシーンは爆笑もの。パワーが大きすぎて、反動で吹っ飛んだり、天井に激突したり。このあたりは実際に見て楽しんで欲しい。航空力学的に考えれば、この構造ではどうやっても飛びそうにはないのだが、開発ステップを詳細に見せることで、アイアンマンに現実味を持たせることに成功している。
実在のロボットも登場してのアイアンマンマニアック分析は次項!