――柴田監督は本当に、SFやホラー、アクションといったジャンル・ムービーを愛しているという印象を受けたのですが。
柴田「そうですね。僕の好きな映画が『ターミネーター』(1984年)、『エイリアン2』(1986年)、『ダイ・ハード』(1988年)、ジョン・カーペンターの作品、ある意味王道中の王道ですね(笑)。だから、とにかく痛快で面白いエンタテインメント映画をやりたいんです」
――面白いエンタテインメント映画を、日本映画界の制約の中で作ろうとすると、窮屈さを感じませんか?
柴田「それも、やり方次第です。日本で大作といっても製作費はせいぜい5、6億。その予算でハリウッドと同じ事をやろうとしても間違い。『CUBE』(※1997年にカナダで製作された密室系低予算ホラー映画の名作。低予算のためひとつの部屋のセットを衣替えして撮影。無限に部屋があるかのように見せた)のように、面白いコンセプトで、ある部分に特化すれば素晴らしい表現はできると思います。地球に隕石が落ちてくるみたいな企画を邦画でやろうというのは、違うと思うんです」
――限られた予算の枠内で面白い表現をするという事に関して、柴田監督はバランス感覚的に優れていると『リアル鬼ごっこ』を観ていて感じたのですが。
柴田「僕は会社員で、営業でソフトを売るという事の大切さもわかるし、プロデューサーもしてきたから、予算内で納める事の大切さもわかる。確かにバランス感覚はあると思います。ただ、やはり監督をやっている時はクリエイターの頭になっていると思います(笑)」
――会社員で映画監督という例は、ROBOTのような映画製作会社以外では、あまり聞かないような気がするのですが。
柴田「確かに僕みたいなケースはないと思います。元々、映画監督になりたかったのですが、助監督を10年やってから、といった方法以外にも道はあると思ったんです。映画会社に入っても、必ずしも映画の企画に携われるわけでない。だから、好きな映画や音楽を扱えるパイオニアLDC(現ジェネオン エンタテインメント)に入社し、その周辺から映画監督になる別の道を探そうと思ったんです」
――具体的にどんなアクションを起こして映画監督になったのですか?
柴田「ジェネオンでどんな部署にいても、とにかく色々な人に会うという事は続けていました。下戸なのに、積極的に飲み会にも顔を出してたんです(笑)。そんな時、飲み会の席で一緒だった他のレコード会社の人に映画の企画を話したら、なんと自分で監督出来る事になったんです」
――社内監督としてどんな日々を送っているのですか?
柴田「映画監督として、脚本を書くとか、構想を練るとかいう忙しさに直面したいのですが、プロデューサーとしての業務がとにかく忙しいですね。それに、そうした仕事でほとんど外に出ていますから、会社員としての事務処理が凄い勢いで溜まるんですよ。それを土日にこなしてます(笑)。でも、この環境は本当にありがたいです。作りたい映画に取り組める環境が今の会社にはありますから」
――映画監督としての独立などは考えないのですか?
柴田「考えてないですね。監督として食べていけるほどこの世界は甘くないので(笑)。会社員という今の環境の中で映画監督を続けられる限りやっていきたいですね」
――これからは、どんな作品を作っていきたいですか?
柴田「女の子サイボーグのお話はやりたかったんですけど、やられちゃいましたね(笑)。後は、日本刀でチャンバラ。ハリウッドにも見せられるような、日本ならではのブレイドアクションみたいなものをやりたいですね。先に誰かにやられないことを願ってます(笑)」
――最後に、映画監督を目指す人々に、柴田監督からアドバイスをお願いします。
柴田「とにかく人と会うこと。この世界で人の縁は本当に大切です。あとは、とにかく作るという事です。数分の短編作品でも、出来る条件の中で作るべきです。今の時代は、たとえひとりでも作品が作れます。何か行動を起こさない限り、絶対に映画監督にはなれません。たとえひとりぼっちで作った5分の短編だとしても、あらゆる人に見せるべきです。それが第一歩となります。やった人の勝ちだと思いますよ」
社員でありながら映画監督でもある柴田一成は、限られた条件の中で『リアル鬼ごっこ』を監督しヒットさせた。自分の立場や現状を把握していて、バランス感覚に優れているスマートな人物という印象の柴田監督。だが、ジャンル・ムービーに対する尋常でない愛情や、映画監督になるという大きな夢を「自分だけの方法」で叶えた意思の強さが、そのスマートな容姿の奥に確かに感じられた。
リアル鬼ごっこ
日本で最も多い苗字である「佐藤」姓の人間が変死するという事件が全国で起こる。不良高校生の佐藤翼(石田卓也)は、対立する不良グループから逃走中、突然、異世界に紛れ込んでしまう。そこは、この世界とよく似た、もうひとつの日本だった。その日本を支配する王様は、「佐藤」姓の人間のみを対象に「リアル鬼ごっこ」という人間狩りを行っていたのだ リアル鬼ごっこ プレミアム・エディション
発売元ジェネオン エンタテインメント
6300円(スタンダード・エディション3,990円)
発売中
(C)2007「リアル鬼ごっこ」製作委員会
撮影:中村浩二